力が欲しい、と思った。





 エリニース城で、ルカからのすぐ来てほしいというテレパシーを受けた三人は、妖魔の森を進んでいた。

 「プリム!」

 鋭い声にはっとして振り向いたポポイが見たものは、プリムをかばうランディと、その背後に迫る何本かの矢だった。

 ポポイはブーメランを投げ、さらに二人に攻撃を仕掛けようとしていたポロンを倒す。

 先程の矢のうちの一本がランディに当たったようで、プリムの焦った声が聞こえる。

 ポポイは駆け寄りたい気持ちをこらえて、まずは周囲の敵を一掃しようと決めた。

 残りの敵はポロンが数匹。普段はブーメランを使うポポイだが、二人が戦えない今、一人で多数を相手するのに向いている武器ではない。とは言え、あまり接近戦も得意ではない。

 ポポイはムチを取り出し、矢をかいくぐって攻撃を加えていく。

 だが、一度当たってもそれほどダメージを与えられない。ポポイの力でも、たいした威力にならないのだ。

 アンちゃんだったら一撃で仕留めるのに!

 ポポイはいらいらしながらも、なんとか全てのポロンを倒す。

 慌ててランディとプリムの元に駆け寄ったが、ランディの顔色が悪い。ポポイはプリムの手に握られている抜いたのであろう矢の先端を見ると、目を細めた。

 「まずい……毒が塗ってある」

 「なんですって!?」

 野生のポロンには知恵をつけた者もいる、というのを聞いたことがあった。

 早く治療しなくてはと思い、ポポイは、神殿まで歩けるか、とランディに声をかけた。ランディが顔を上げてポポイを見る。

 「うん……だい、じょうぶ」

 ランディは、息を切らしながらも、無理して笑って見せた。

 ポポイはたまらなくなった。

 ランディはいつも無理をする。疲れているときも、怪我をしたときも、決まって大丈夫だ、と言うのだ。

 「とりあえず、立って」

 プリムが肩を貸しながら言う。

 ポポイは自分もそうしようとして、気付く。

 ランディの身長と自分の身長では、肩を貸すことすらできないのだ。

 愕然としたが、すぐに我に返ると、ならばとランディとプリムの荷物を持って、二人の後を追いかける。

 ランディが矢が刺さった肩を押さえながらふらふらと歩く。プリムは、自分より大きい身体を必死で支えている。

 二人の背中を見ながら、そんな場合ではないと思いつつポポイは目頭が熱くなるのを感じた。

 ――悔しい。

 それは、今まで感じたことのない気持ちだった。

 ドワーフ村で見世物小屋をしていたときは、妖精であるが故の自分の体の小ささも、非力さも、むしろラッキーだと思っていた。皆が親切にしてくれたし、旅人も憐れんでくれたからだ。

 だが、今は、こんなにも悔しい。

 三人で旅を始めてまだ少し。その中でも気づくことがあった。

 戦闘の中心はランディだ。一番前に立ち、敵に切り込んでいく。ランディが仕留めきれない敵を、プリムが確実に倒していく。一方ポポイは遠くから、ブーメランで攻撃を仕掛けていく。先程のように、ポポイ一人となると戦いにくいのである。

 また、身体が小さいせいか、体力もあまりない。たくさん食べるようにはしているが、途中でエネルギーが切れてしまうこともしばしばだ。

 アンちゃんみたいに、剣を振り回せる強い力があれば、そもそも仲間に怪我を負わせることはなかった。

 ネエちゃんみたいに、仲間に肩を貸せるくらいには大きな身体であればよかった。

 もっと、力が欲しい。

 ポポイは泣くのを必死で堪えるため、早歩きになった。





 ルカの呼び出しの内容とは、ウンディーネと連絡が取れないので様子を見てきてほしい、ということだった。モンスターを倒し、対面したウンディーネは言った。

 「ありがとう。お礼に私の力を貸しましょう」

 そしてポポイは、直接心に語りかけてくる声を聞いた。

 ――あなた、どのような力を望みますか。

 ウンディーネの瞳は、心の中を見透かすように澄んでいた。

 どのような力を?

 そんなことは、決まっている!

 もっと、もっと強い力を。オイラの妖精の小さな身体でも使いこなせる大きな力が欲しい。

 ウンディーネはこくりとうなずくと言った。

 「ポポイは、攻撃の魔法を」

 身体が温かくなり、新たな力が生まれるのがわかった。

 

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「守られるだけなんてイヤ」のポポイ編。

2009.4.7

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