4 守られるだけなんてイヤ

 

 

 

 

 

水の神殿の裏にある洞窟で、とかげのモンスターを撃退すると、水の精霊・ウンディーネと対面することができた。

 

「ありがとう。お礼に私の力を貸しましょう」

 

お伽話に登場する人魚のような外見をした精霊は、清廉な声でそう言った。

 

三人は期待を膨らませる。そのとき、プリムは、心の中に直接語りかけてくるような声を聞いた。

 

――あなたは、どんな力を望むのですか?

 

プリムは驚いてウンディーネを見た。精霊は、宝石のように輝き強い瞳を、まっすぐに向けてくる。

 

どんな、力を……。

 

プリムは考えを巡らした。

 

 

 

 

 

 エリニース城で、ルカからのすぐ来てほしいというテレパシーを受けた三人は、妖魔の森を進んでいた。

 

 「プリム!」

 

 ランディの切羽詰まった声に、プリムは振り向こうとする。だが、それは果たせず、体当たりをされて後ろに倒れる。

 

 何が起こったのかわからず、目を開けると、ランディが自分を抱え込むようにしており、近くの地面に何本もの矢が刺さっていた。

 

 ランディの体の向こうに、ポロンが弓を構えているのが見える。

 

 背後から矢を射られたのだ、ということに気付いたときには、ポロンが第二撃を放とうとしていた。

 

 思わずプリムは目をつむったが、風を切る音と共にポポイのブーメランがポロンを仕留めた。

 

 ほっとして、プリムは慌ててランディに向き直る。

 

 「ランディ、……!」

 

 ランディの右肩には、矢が深々と刺さっていた。プリムの顔から血の気が引く。

 

 「馬鹿!何してるのよ!かばってもらわなくたって、ちゃんと避けてたわよ!」

 

 嘘だ。他の敵に気を取られて、全く気配に気づいていなかった。

 

 「……そうだね、ごめん……」

 

 「いいから、しゃべらないで!」

 

 ランディは息使いが荒く、額に脂汗を流している。尋常じゃない様子に焦りながらも、プリムは慎重に矢を引き抜く。ランディが悲鳴を堪えた。

 

 「アンちゃん!ネエちゃん!」

 

 周囲の敵を倒していたポポイが戻ってきた。プリムの手の中の矢を見て、思案顔になる。

 

 「まずい……矢に毒が塗ってある」

 

 「何ですって!?」

 

 プリムが血を止めながら声を上げた。ランディの顔がどんどん蒼白になっていくのが、それを証明していた。

 

プリムとポポイでは、ランディを運ぶことはできない。体力を消耗するだろうが、二人で肩を貸して、ランディに歩いてもらうしかない。

 

「アンちゃん、神殿まで行けるか?」

 

「うん……だい、じょうぶ」

 

こうなったら、一刻でも早く神殿に辿り着くしかない。二人は焦る気持ちを抑えて、ランディを立ち上がらせた。

 

 

 

 

 

水の神殿の一室。

 

眠っているランディの顔は、安らかとは言えない。ベッドの横ではプリムが看病のために座っていた。

 

なんとか神殿まで辿り着き、ルカに見せたところ、矢に塗られていたのは平原に生息している植物だとわかった。被害に遭う者も多いらしく、神殿に解毒のための薬が常備してあったのが救いであった。

 

だが、肩の傷に加え、神殿までの道のりで身体に毒が回ったことで、ランディは高熱を出していた。ルカの見立てだと、強い毒ではないため命に別状はないが、今晩は様子を見ていた方がいいということだった。

 

「ネエちゃん」

 

ポポイが部屋に入ってきた。

 

「ルカ様の話を聞いてきたよ。水の精霊と連絡が取れないから、アンちゃんが回復したら、様子を見に行ってほしいんだって」

 

「……そう」

 

言葉少ななプリムの様子に、ポポイは溜息をついた。

 

「あんまり自分のこと責めないでくれよ。ネエちゃんが落ち込んでると、調子狂っちゃうじゃないか」

 

「……落ち込んでるわけじゃないの。どっちかっていうと怒ってるわ。油断した自分と、それからこいつに」

 

プリムはこいつ、と言ってランディの額に置かれた水を含んだ布を指で弾いた。ランディが眉根を寄せる。

 

「なーんか、ランディって、自分のことないがしろにしてるのよね」

 

「そうかも。いつも見てて危なっかしいもんなあ」

 

ランディは意識していないのだろうが、彼の戦い方は捨て身なところがよく見受けられた。実際、怪我も絶えない。

 

「今回だって、私をかばうことで頭がいっぱいで、その後自分がどうなるか、気にしてもいなかったに違いないわ。咄嗟のことだから仕方ないって言ったらそれまでだけど……自分のこと、大切にしてないのよ。でもそれって、ランディを大切に思ってる人に対して、すごく、失礼だと思わない?」

 

プリムは、父であるエルマンや、家に仕える侍女たちに、大切に育てられてきたという自覚があった。そして、その慈しみに応えるには、自分が健康で幸福であることが何よりだと知っていた。

 

だからこそ、自分のことを考えないランディに苛立ちを感じるのだ。

 

「うん。オイラたちが、アンちゃんが怪我することでどう思うか、わかってないんだろうな」

 

ポポイも困った顔をする。

 

二人は同時に溜息をついた。

 

そして目を合わせると、苦笑いをした。

 

三人で旅をすることになってから日が浅い。二人はまだ、ランディを通してしか話したことのなかった。こんな会話をするのは初めてだ。

 

「ホント、仕方無いやつね」

 

「うん。だから、オイラたちがしっかり守ってあげないと」

 

ランディが自分たちを守るというのなら、ランディのことは自分たちが守ろう。

 

二人は、どちらからともなく握手を交わした。

 

プリムは眠るランディの顔をちらりと見た。

 

……お生憎様。私は、守られるだけなんてイヤよ、ランディ。

 

 

 

 

 

 プリムは、顔を上げると、強く願う。

 

――私は、すぐ隣にいる馬鹿を、守れるような力が欲しい。

 

ウンディーネがこくりとうなずいた。

 

「プリムは、回復や防御の魔法を」

 

身体が温かくなり、新たな力が湧きあがるのがわかった。

 

 

 

お題

 

 

魔法を使えるようになったときのお話。これは、ポポイバージョンも書きたい。

 

2009.3.6

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