ホットミルク

 
 
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 帝国城下街、ノースタウン。
 
 
 レジスタンスのアジトに辿り着いたその夜。ランディたち3人は、レジスタンスのリーダー・クリスの好意によって、当分の間、アジトに寝泊まりさせてもらうことになった。
 
 明日から、街に出て、帝国の情勢に関して情報収集する予定だ。
 
 
 
 
 夜半、あてがわれた部屋で、ランディはベッドから起き上がった。そっとドアを開け、廊下に出る。
 
 体は疲れているのだが、どうにも眠れない。
 
 自分の部屋の隣――ポポイの部屋からは規則的な寝息というかいびきが聞こえてくる。ランディはそのさらに隣の部屋のドアを見つめた。プリムの部屋である。
 
 プリムはおそらく、自分と同じく眠っていないだろう。彼女は食事が終ったあと、さっさと自分の部屋に引っ込んでしまった。ディラックの噂話を聞いて気が立っている彼女の、一人にしておいてくれというサインだろう。
 
 ランディはひとつ溜息をついた。
 
 ――役に立たないな、僕は。こんなときに、慰める方法ひとつ浮かばない。結局、彼女の気持ちを汲み取って、そっとしておくという、最低限のことしかできない。
 
自嘲的になる思考を振り払うように頭を振る。
 
何か飲んで眠りなおそう、そう思い、アジトのキッチンに向かって歩き出す。クリスから、好きに使ってもらってかまわない、という許可はもらっている。
 
と、キッチンの手前の広間からにぎやかな人の声が聞こえてくる。
 
かなり大勢の人数で酒宴を催しているようだ。ランディは思わず足を止めた。
 
 「しっかし、聖剣の勇者様御一行が、あんなガキ共だったとはなぁ」
 
 「あの赤い髪のチビ、常人の3倍はメシ食ってたぞ」
 
 「なんでも妖精らしい。大魔法使いポポイ様だ、とかなんとか」
 
 「ええっ、初めて見たな、妖精なんて」
 
 「金髪の姉ちゃん、キレイだったな」
 
 「おっ、くどくのか!?」
 
 「やめておけ、ありゃあ気が強そうだ」
 
 キッチンには広間を通らなければ辿り着けない。廊下の真ん中で突っ立ったまま、引き返そうかと迷っていると、ランディの耳が一際大きな声を捉えた。
 
 「だけどよぉ、あの聖剣の勇者様だっていうヤツはなんなんだ?ただの村人Aって感じだが、なんであんなのが聖剣を持ってるんだ?」
 
 ランディは思わず身を固くした。
 
 「それがさ……ジェマ様がクリスに話してるところを聞いちまったんだけどよ。なんでも、誤って聖剣を抜いたらしい。聖剣は抜いた者にしか扱えないらしいから……」
 
 「なんだそりゃ!いい迷惑だな」
 
 「あいつが余計なことをしなけりゃ、ジェマ様が抜いてくれただろうに」
 
 「そんな奴に世界が救えるのかよ」
 
 「だからよ、聖剣の勇者なんて頼りにせず、俺達でこの帝国を変えてやろなきゃなんねーってことだ!」
 
 そうだそうだ、と呼応する声が重なった。
 
 ランディは立ち尽くしたままだった。いつ誰が廊下に顔を出し、立ち聞きが見つかるともわからないのに、体が動かなかった。
 
 「ランディさん」
 
 ふいに涼やかな声が聞こえた。
 
 ランディはびくりと肩を跳ね上がらせた。おそるおそる振り返ると、そこにはクリスが立っていた。
 
 ランディは気配に気づかなかった自分を心の中で罵った。ああ、本当に情けない。仮にも聖剣の勇者が。
 
 慌てて言うべき言葉を探すが、出てきたのは「あの」とか「ええと」という、一言二言のみで、結局口を閉ざしてしまった。
 
 クリスはそんなランディの様子にも首を傾げず、やわらかく微笑んで言った。
 
 「ランディさんも眠れないんですか?実は私もなんです。今、飲み物を用意しますから、良ければ少し、お話しませんか」
 
 
 
 
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レジスタンスの人たちは、実際、こんなに意地悪じゃないと思うのですが…(笑)

2009.2.4

 

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