試練の回廊

 

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祠の前で仁王立ちしたプリムは、大きくため息をついて言った。

「さあ、行くわよ。次はどこにおでかけしているのかしら、賢人ジャッハ様は!」

「入る前からあきらめてるんだね、プリム……」

苦笑いをしたランディとポポイを素早く振り返ると、プリムは勢い込んで叫んだ。

「だって!もう何回目よ!くだらなくて数える気にもならないわ!」

三人はジェマとルカから、帝国と戦う力をつけるためには、賢人ジャッハに会って、真の勇気を身につける必要があると言われていた。

白い竜の子どもであるフラミーという仲間ができて、移動できる場所が増えたおかげでようやくジャッハがいるというマンテン山へ赴くことが可能になった。そうしてジャッハの元を訪れた三人を待っていたのは、ジャッハの弟子だという赤い羽根を持った鳥のジーコだった。

ジャッハ様は留守である、と言われ、その後を追いかけるがすれ違いになってしまう、ということをもう何度も繰り返してきた。

最初はあきれてジャッハに対する文句ばかり出てきたものだが、ここまでくればジャッハが何か考えがあってを自分たちを振り回しているのではないかと思えてくる。

ジャッハを追ってたどりついた月の神殿、光の神殿では新たな精霊を仲間にできたし、タスマニカ共和国では帝国のスパイから王を守ることができた。実際、寄り道しているといっても無駄なことはしていないのだ。

もしかしたら、これも試練のうちなのかもしれない。

なので、こうしてプリムが一頻り文句を言うのも、ただのポーズになりつつあった。

三人は顔を見合わせて少し笑うと、「よし、いこうか」というランディの声に祠へと歩みを進めた。

日の射し込まない祠の中は暗く、弱い明かりがぽつんとジーコの姿を浮かび上がらせているだけだった。せーの、というランディのかけ声とともに三人は息をすった。

「ジャッハ様に会いに来ました!」

「ジャッハ様は留守で……」

「また!?」

覚悟はしていたものの、ジーコの言葉に三人は徒労感を覚えずにはいられず、全身から力が抜ける。

ジーコが眉間にしわを寄せた。

「留守で、今お帰りになったんだな」

三人は耳を疑った。

ジーコの隣に、ぼうっとした影が現れる。それはゆらゆらと揺れて徐々に形をなすと、汚れてよれた服をきた長い髭の老人の姿になった。まさに仙人、といった風貌である。

「……って、ええええ!?」

事態を把握するのに時間がかかった三人は遅れて大きな声をあげた。

ランディはあたふたとプリムとポポイを交互に見てしまう。二人とも驚きに目を丸くしていたが、すぐに我に返ったのか居住まいを正す。

ランディはあわてて自分も背筋を伸ばすとジャッハのほうを見つめた。

ジャッハがいよいよ自分たちの前に現れたということは、いよいよ本格的に真の勇気を受け入れるための試練が始まるのだ。

ジャッハは口をもごもごと動かしたが、ランディたちにはよくわからない。困って視線をジーコに向けると、ジーコはこほん、と咳払いをした。

「ジャッハ様は難しい古代語を使うんだな。だから通訳するんだな。真の勇気を手に入れるには、この祠の奥の回廊を進んでいって、一番奥にいるやつを倒せばいいんだな」

ジーコはそう言うと、羽根をばさりと広げて自分の後ろの、ぽっかりと口を開けている奥を指した。

ポポイが腕まくりをして「ようやくだな!」と笑う。プリムもグローブをきつく握った。

「誰が相手でも負けないわ!真の勇気をさっさと手に入れて、一刻も早くディラックを助けに行くんですもの!」

ランディは二人に向かってうなずくと、ジャッハに向き直った。

「わかりました。ここを進んでいけばいいんですね?」

「ずいぶんと余裕そうなんだな」

ジーコが憮然と言う。心配そう、というよりもなめられていると思ってか少し不機嫌そうだ。ランディは頬をかくと、「そんなことはないですが」と言った。

「ジャッハ様を追いかけてあちこち行くうち、かなり強くなれたと思っています」

「今のオイラたちに勝てるやつは、ちょっといないぞ!」

ポポイが胸をはる。ジーコはほう、とくちばしの下を羽根で撫でると、「では気をつけていってくるんだな」と手を振った。

 


祠の中のモンスターたちはさすがに手強かったが、倒せないというほどでもなかった。

やはり、一番奥にいるという敵が本命なのだろう。

「どんな敵なのかしら」

「オイラはちょっとわくわくするけどな!」

「不謹慎だよ、ポポイ」

諫めながらも、ランディも負けるかもしれない、という気持ちはなかった。

この戦いで培ってきた三人の連携は一人一人の力を二倍にも三倍にもする。もちろん、一人一人の力も大きくなっている。ランディの剣術はジェマにも認められるほどの腕になり、プリムの身のこなしや素早さも上がった。ポポイの魔法も威力は絶大だ。もうそこらの敵には全く負ける気がしなかった。

二つの神殿を回り、帝国の手先も退けた今、力はかなりついてきたと思っている。だからこそ、ランディは疑問だった。真の勇気を身につけるための試練というのは、何を試されるのだろうか。単に戦う力を試すものではないのかもしれない。

襲いかかるかぼちゃの形のモンスターやゾンビを剣で一閃する。となりではプリムもとどめの蹴りを入れ、ポポイが魔法を命中させたのか、爆発音が響きわたった。

ランディがふう、と汗を拭ったときだった。

回廊の壁に設置してあった明かりの炎が風もないのに揺らめき、あたりに闇が落ちた。

「え」

「きゃあ!」

「アンちゃんネエちゃん?どこだ!?」

あわててお互いの場所を特定しようとするが、手探りで進んでも闇が広がっているばかりで何もつかめない。

「プリム?ポポイ!」

ランディは最初はプリムやポポイとぶつかるのではとそろそろと進んでいたが、いくら呼んでも返事が返ってこなくなり、激突してもかまわないと歩き回り始めた。

だが、壁に囲まれた回廊の中を進んでいたとは思えないほど、いくら歩いてもどこにもぶつからない。

「プリムー!ポポイ!」

いくら叫んでもやはり返事もなく、洞窟の中にいるはずなのに、声もまともに響かない。時間がたって、目が暗闇に慣れたはずが、壁や岩の輪郭も見えない。

一体どうなっているのかと立ち止まったときに、ふいに視界が明るくなった。

そこには先ほどまでと同じ、ごつごつとした岩で覆われた広い場所だった。

真ん中あたりに、一人の人間が立っている。

眩しさに慣れ、その姿を子細に見つめたランディは息をのんだ。

栗色の髪。少し浅黒い肌の色。小手に覆われた手に、一振りの剣を握っている。鮮やかな色のバンダナが揺れて、その人間がこちらを見つめた。青い色の瞳がランディをとらえる。

「……僕?」

からからに乾いた喉から、かろうじて音が出た。

「そいつに勝てたら、合格なんだな」

どこからともなくジーコの声が聞こえた。

 

 

 

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2012.9.17

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