ねがい
星が綺麗だねえ。
旅の中で何度も野宿してきたけど、まあ、いいものじゃないよね。
地面は固い、背中は痛い。モンスターが出るかもしれないから警戒しなきゃいけないし。
でも、この星空だけは素晴らしいよね。町の灯りがある中じゃ見られないもん。
え? ……早く寝ろって?
うん、そうだね。
でもアンちゃんだけ見張りに立てて、オイラがぐーすか寝てるのもね。いや、いつもはそうなんだけど。今日はなんとなく、アンちゃんにつきあいたい気分なんだ。
だってこんなに綺麗な星空なんだもん。もったいないじゃないか。
あ! あ、ねえ、今! 流れ星!
流れ星が流れたよ、あのへん。見なかった?
これだからアンちゃんは。肝心なところを見逃すんだから。
そんなことよりも、流れ星だよ。
やっぱりあの一瞬で三回も願い事を唱えるのは無理があるよなあ。
アンちゃん、咄嗟に願い事唱えられる? ねえ、無理だよねえ。
いざってときのために、願い事は事前に考えておかないといけないよね。ね、考えてみようよ。
あ、口に出しちゃちゃだめだよ! 願い事っていうのは、人に言うと叶わなくなるんだ。……あれってなんでなんだろうね?
え?
ふうん。
願い事を聞いた他の人が、邪魔しようとするから、ね。
昔、嫌なことがあったの、アンちゃん。
ううん、アンちゃんがそういうこと言うの、なんか、珍しいから。
そっか。うん、忘れる。謝らなくていいよ。
他人の幸福が妬ましくて煩わしいこともある。
だけど、一緒に幸福を願ってくれる人がいればいいのにね。
アンちゃん、オイラの願い事はね、この世界を救うことだよ。
口に出してもいいのかって?
うん、だって、アンちゃんとネエちゃんの願い事だって同じだろ?
同じことを願ってくれる人だったら、願い事を言っても協力してくれる。だから、叶うじゃないか。
あ、オイラいいこと考えたよ!
流れ星が流れたら、三人で一斉に願うんだ!
ひとり一回でいい。それなら一瞬の間にも唱えられるだろう?
三人が同じ願い事をすれば、それで三回になる。
きっと叶うよ。ね。
ふあああ、そろそろ眠たくなってきたなあ。
アンちゃん、結局、あと頼んでもいい? あはは。
退屈になったら、空を見上げてよ。
流れ星が流れたら、願い事を唱える練習をしておいてね。
おやすみ。
「ポポイ。僕の願い事はね、君と一緒じゃなかったんだ。
だからかな、願い事は叶わなかったよ。みんなでハッピーエンドを迎えるはずだったのになあ。
きっと君は、いいやアンちゃん、ちゃんと叶ったじゃないかって笑うんだろうけど。
口には出さなかったのになあ。願い事は、叶わなかったよ。叶わなかったんだ」
2013.9.1