声
「ありがとう、フラミー」
そう言って頭を撫でてから、ランディはフラミーから降りた。プリムとポポイも軽やかに地面に降り立つ。フラミーは一声鳴くと、高く空へと飛び立っていった。
三人は息を吐き、周りを見渡す。
見たことない植物が生い茂る深い森。ところどころに、神殿があった名残なのか、細かい細工の柱や床の残骸が、朽ち果てて横たわっている。辺りには霧がかかっていて、神秘的な雰囲気だ。
ここはマナの聖地。
本来、人間が足を踏み入れられる場所ではない。要塞が蘇りマナを奪い続けているため、聖地を覆っていた厚い雲が晴れたのだ。
マナの木と聖剣を直接共鳴させて聖剣を蘇らせる。ランディたちはジェマが提案した最後の希望にすがってこの地に降り立った。
状況は絶望的だ。一刻の猶予もない。
「さ、行こう」
ランディが言うと、プリムとポポイが緊張に満ちた面持ちでうなずく。
三人は足を踏み出した。その時だった。
――待っていましたよ。さあ、早く、ここまで来なさい……
風に乗って、声が聞こえた。囁くようでいて、はっきりと胸に響く声。
「え?何、今の?」
「声が聞こえたよな?」
「ポポイにも聞こえた?でも誰もいないわよね?」
「うん。何だったんだ?なぁ、アンちゃん……」
二人はランディを振り返って絶句した。
「ランディ……?」
「アンちゃん……?」
二人が目を見開いている様子に、ランディは「え?」と返した。
ランディの頬を、涙が伝っていた。
「え、え?あれ?僕、なんで……」
ランディもやっと自分の状態に気付き、頬をぬぐう。同時に、胸に込み上げる熱さに気付く。
何だこれ。
ランディは、自分の感情の正体がつかめず困惑する。
ふいに聞こえてきた声。その持ち主は誰なのかわからない。もしかしたら敵なのかもしれない。それにも関わらず、何度も、今の声を頭の中で再生している。
柔らかい、包み込むような温かさを持ったその声。
思いだす度、胸の中のどこかがうずく。
締め付けられるような、この気持ちは。
「……懐かしさ……?」
ランディは呆然として呟いた。
本当の意味での故郷と言える場所のない自分が、懐かしいという気持ちを感じるなんて。
涙はしばらく、止まりそうになかった。
2009.4.22