バーチャルヒーロー

 

 

 

 4

 

 

 「――で、受けちゃったわけね、その勝負」

 

 「うん……」

 

 シオンから手合せの申し込みがあってから一週間後。ランディとプリムとパメラはパンドーラの宿屋の食堂にいた。

 

 シオンとの手合せは明日の予定である。それに備え、ランディはポトス村からパンドーラに出てきて、今夜は街中に宿をとっている。プリムとパメラはそこに訪ねてきたのであった。

 

 「自分で王様を説得するからいいです、って断ってもよかったんじゃないの?」

 

 「王様に影響力があることを示されちゃったからね。どうせ僕がそう言ったら、勝負を受けてくれないなら、あなたを何が何でも騎士団長にするように王に言います、って言って脅すつもりだったんだと思う」

 

 「なるほどねえ」

 

 お見事ね、とプリムは感心して見せた。ランディは二人に尋ねる。

 

 「シオンさんは本当に王族なの?」

 

 「ええ、でも、誰にでも気さくよ。私も何度か話したことあるわ。加えてあのルックスだし、街の女の子たちの憧れの的よ」

 

 「昔から剣術にばかり興味を示していたのは有名だったけど、王位継承権をあっさり放棄して騎士になったときはさすがに大騒ぎだったわね。王様にとっては可愛い弟だし、何も危険な役目に就かなくてもってだいぶ渋ったみたい。でも、シオンも頑固だから、誰にも文句は言わせなかったわ」

 

 プリムに比べ、気安くシオンのことを語るパメラにランディがいぶかしげな顔をする。それを見てプリムが付け足した。

 

 「シオンはパメラの遠縁なのよ」

 

 「え、そうなの!?」

 

 「いやね、プリム。貴族なんて、どこかでつながっているものよ。シオンの母親がうちの家とつながりがあるだけ。その関係で幼いころからシオンとは親しくしているけど。そんないきなり緊張しないで、ランディ」

 

 苦笑したパメラに、ランディは顔を赤くして一度正した姿勢を崩した。村育ちで、プリムいわく「田舎者」のランディは、貴族や王族と聞くとどうしても緊張してしまうのだ。先の戦いで身分の高い者とも多く言葉を交わしたが、慣れるというものでもない。

 

 「シオンが王様に意見できる、っていうのも本当よ。やり方はちょっと強引だとは思うし、ランディは手合せには気は進まないかもしれないけど……約束は必ず守ってくれるはずだわ。これで騎士の話は断れるわよ、きっと」

 

 パメラが慰めるように言う。その隣ではプリムがにやにやと笑っている。

 

 「腹くくるしかないわね、ランディ」

 

 「……そうだね。仕方ないか、今回だけ」

 

 ランディは気持ちを切り替えるように言った。

 

 プリムが楽しそうに肘でランディをつつく。

 

 「もう一週間前からずーっと、国中、この噂で持ち切りよー。シオンがあんたとの勝負のために演習後の闘技場を貸し切りにするって言うから、話が大きくなっちゃって」

 

 「今日街を通ったとき視線をかなり感じたんだよね……そういうことか……」

 

 ランディは心底嫌そうな顔をする。

 

 「ランディは聖剣の勇者として有名だけど、シオンも騎士団の中で最も強いって言われてるのよ。赤騎士団なんて親のコネで入ったような騎士も多い中で、実力が認められて今の団長って地位まで上りつめた人なんだから」

 

そう言ってプリムはランディに指を突き出し、彼の額をピン、と弾いた。

 

 「騎士団の騎士たちも、王様も見に来るそうよ。もちろん、私たちも行くしね。良い機会だわ、勇者の戦い方を教えてやりなさい」

 

 「わかってる」

 

 ランディは赤くなった額を押さえながら頷いた。

 

 パメラがくすくす笑いながら言った。

 

 「プリム、一週間ずっと大変だったのよ。どっちが勝つと思うって会う人会う人に聞かれて」

 

 「……どっちって答えたの?」

 

 ランディが何気なさを装って尋ねる。プリムは呆れかえった顔をして言った。

 

 「そんなの、決まってるじゃない」

 

 

 

 

 

城の中にある闘技場は、異様な空気を醸し出していた。

 

今、闘技場には、赤・緑・青の騎士団が整列して並んでいる。皆パンドーラ国の紋章が入った鎧を身にまとい、各騎士団の名と同じ色のマントをはおっている。

 

 彼らは団長の掛声によって、かまえ、剣を振り、またかまえを変え、剣を振り、踏み込む、という演習を繰り返し行っていた。一糸乱れぬその動きは、さすがと言える。

 

 しかし、常とは異なり、それを多くの人々が闘技場の周りから観覧していた。このあとに行われる聖剣の勇者と赤騎士団団長の手合せを見ようとやってきた見物客である。その多くは城で働く者やその関係者であり、プリムとパメラの姿もあった。

 

 また、天井が高い闘技場の壁には広いバルコニーが備え付けられており、そこから王や王妃も様子を見ているのがわかる。

 

 一般人は城内に入れないが、聞くところによると少しでも雰囲気を感じ取ろうというのか、城の周りも人で溢れているそうだ。

 

 多くの人に見られていること、加えて騎士たち自身もこれから行われる対決に興奮を抑えられないようで、隠してはいるものの、普段より浮足立っているような様子があった。

 

 パメラは少し離れたところで壁にもたれ、演習の風景をじっと見つめるランディを見ながら、心配そうに言った。

 

 「ねえ、プリム。私、昨日はあんなこと言ったけど……大丈夫かしら」

 

 「え?何が?」

 

 プリムが不思議そうにパメラに顔を向ける。

 

 「もちろん、シオンは約束を違えるような人じゃないわ。でも、もし……ランディがシオンに勝ったら、ランディの強さが本当に証明されるわ。そうなると、ますます王様はランディを騎士にしようとするんじゃないかしら。シオンの説得を必ず聞き入れてくれるとは限らないし……王様が納得しても、他の重臣が納得しないかもしれないわ」

 

 暗くなっていくパメラの表情とは逆に、プリムはあっけらかんと言った。

 

 「大丈夫よ」

 

 「え?」

 

 「ランディが勝っても、そうはならないと思うわ」

 

 やけに断定的に言うプリムに、パメラは怪訝な顔をする。

 

 「どうして言いきれるの?」

 

 「見ていればわかるわ」

 

プリムはそう言って、闘技場へと視線を向けた。これ以上説明してくれる気はないらしい。

 

仕方なく、パメラも同じく闘技場を見る。

 

シオンの「今日はこれまで」という号令がかかり、演習が終ったところであった。

 

ランディが壁から身体を離し、闘技場へと歩を進めた。

 

 

 

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闘技場は、聖剣3のデュランがオープニングで戦っていたようなところを想像してもらえればと思います。

 

2009.2.27

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