父を継ぐ

 

 

 

 1

 

 

 聖剣の勇者たちの協力者が集まったマナの神殿。

 

マナの聖域から戻ってきた三人を出迎えたジェマは、全員が目を真っ赤に腫らしているのに驚いた。特に、ランディは憔悴の色が濃いように見える。

 

「……一体何があったんだ」

 

思わず尋ねたジェマに、実は、とランディが口を開きかけた。しかし、それをプリムがさえぎる。

 

「ジェマ。事情は私たちが説明するわ。ランディが一番疲れてるから、先に休ませたいんだけど」

 

「あ、ああ。神殿の中に私の部下と、レジスタンスのメンバーで休憩所を用意した。中に入ればクリスが案内してくれるだろう」

 

 ジェマが答えると、プリムはうなずいた。そして、ランディの背中をぐいぐい押す。

 

「さ、あんたは行きなさい」

 

「え、でも……」

 

「いいから!」

 

強引なプリムの行動も、ポポイが何も言わないところを見ると二人の中では整合性のとれたことなのだろう。

 

ジェマは、ここはおとなしく従うか、と溜息をついた。

 

 

 

 

 

ジェマとプリムは神殿の中にある一室で向かい合っていた。

 

あの後、ランディと共になぜかポポイも姿を消した。ジェマはプリムにどこか落ち着いて話ができるところに案内しろ、と言われてここに連れてきたのだ。しかし、肝心のプリムは「話はポポイが来てから」と言い放つと、クリスが運んできてくれた紅茶を飲んでいる。

 

ジェマが仕方なく自らも紅茶に口をつけていると、ポポイがやってきた。

 

「どこに行っていたんだ?」

 

ジェマが尋ねると、ポポイはにやりと笑って言った。

 

「アンちゃんのところ。あの分じゃ、休めって言っても眠れなさそうだったから、ちょっとスリープフラワーを」

 

「…………」

 

スリープフラワーはドリアードの魔法だが、安眠のためなどではなく、モンスターを昏倒させる、攻撃性の強い魔法だったような気がするのだが。ポポイに悪びれた様子は全くない。むしろ、いたずらが成功して心底楽しい、といった表情に、ジェマの顔は引きつる。

 

それにしても、とジェマは思う。プリムとポポイはここに至るまで一言も言葉を交わさなかった。交わす必要もなくお互いがどのような行動を取るか理解しているのだろう。チームワークが良い、と言う以上のものを感じる。

 

それはきっと、信頼、というものだろう。

 

もう何年もタスマニカ共和国の騎士を勤めているが、ランディにとってのプリムやポポイのように、信頼を持てる、背中を安心して預けられる仲間、という者がいただろうか、とジェマは考える。特に最近は、部下を率いる立場になったこともあり、そのような存在は……。

 

ジェマは自分の人生を振り返り、ふと、一人の人物を思い出した。

 

――ああ、そうだ。私にも一人、いた。お互いに信頼できる存在が。

 

「ジェマ」

 

ポポイが椅子に腰掛け、プリムがカップを置いてジェマを呼んだ。ジェマは回想から引き戻される。

 

「待たせて悪かったわ。マナの聖域であったこと……説明するわね」

 

 

 

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2009.3.4

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