おとこのこ

 

 

 「さ、む、いー!!」

 プリムが癇癪を起したように怒鳴った。

 だが、次の瞬間には口を開けるのも寒いというようにマフラーの中に顔を半分以上埋める。

 「こんなことなら、サラマンダーにあのストーブの中にずっと入ってもらっていればよかった……」

 「なんてこと言い出すんだよ、プリム……」

 ぼそぼそと呟くプリムに、呆れたような顔でランディがたしなめる。

 三人は今、クリスタルパレスに向かうため、雪原を歩いている。

 持っていた服ではこのあたりの寒さに耐えきれないため、近くの町で防寒具を調達した。それでも寒いものは寒い。

 「パンドーラって割と南の地域だもんなー。寒さに慣れてないのか?」

 ポポイがラビを模した帽子をかぶりなおしながら言う。

 「でも、毎年雪だって降るよ。それに、女の子のほうが脂肪があるから寒くない、とか聞いたことがあるような気がするんだけど……」

 ランディがプリムに聞こえるか微妙に小さな声で呟いた。だが、耳あてをつけていてもプリムの耳には入ってしまったようだ。

 「私に余計な脂肪がついているっていうの、ランディ!」

 そう怒鳴って華麗に蹴りを放つ。

 ランディは慌てて横へとかわす。

 「そ、そういう意味で言ったんじゃないってば!」

 「私は全部筋肉なの!」

 よけるな!と無茶なことを言いながら、もう一度プリムが蹴りを繰り出した。だが、軸足にした左足の下が氷だったのか、ずるりとプリムの身体が傾いた。

 「きゃあ!?」

 「プリム!」

 プリムは地面に叩きつけられることを予想してぎゅっと目をつむった。

 しかし、衝撃は訪れない。

 おそるおそる目を開けると、ランディがプリムの腕をつかみ、身体を支えていた。

 「大丈夫?」

 ランディはなんでもないように声をかけた。完全にバランスを失ったはずの自分の身体を、ランディが片腕だけで簡単に支えている。

 ――すごい。やっぱり男の子なんだ……。

 そこまで思い至った途端、急に羞恥がプリムの顔に上った。

 「だ、大丈夫!ありがとう!」

 「ネエちゃん、気をつけて。戦闘中に同じことしないでくれよ」

 「大丈夫よ!」

 ポポイに言ってから、プリムは二人から顔を逸らした。

 ランディはプリムが自分の発言を忘れてしまったことに安堵しているため、プリムの様子には気づかない。

 へ、変だわ。どうしたのかしら、私。

 先程まで、あんなに寒い寒いと言っていたのに、顔が赤くなって仕方ない。胸まで鼓動を速めている。

 「クリスタルパレスはもうすぐのはずだから、頑張ろう」

 ランディの声に、また鼓動が速くなった。

 プリムは表情が見られないように、ますますマフラーの中に顔を埋めるのだった。

 

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2010.4.29

 

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