寝顔

 

 

 はっとすると、目の前には燃える炎があった。

 ランディは寝てはいなかったものの、意識がぼんやりしていたことに気づき、ぶんぶんと頭を振った。

 今日は森の中で野宿である。プリムとポポイには休んでもらい、ランディが火の番をしているところだった。

 ――この辺りはモンスターも多いし。今晩は火を絶やさないようにしておかないと。

 本当は、一晩中起きているのは辛いから、途中で火を消してランディも寝なさいよ、とプリムに言われていた。

 だがランディには寝る気はさらさらなかった。三人とも寝入っている隙に囲まれていたら洒落にならない。

 日が昇ってきてから寝て、ちゃんと途中で寝たよと言えば、二人にはばれないだろう。

 そう考えながら、ランディは枝を火の中に放る。さらに枝をくべようと手元を探るが、夕飯前にポポイと集めた枝は本数が尽きてしまったらしい。

 「仕方ない、少し拾ってこようっと」

 ランディは立ち上がる。眠気を紛らわそうという気持ちもあった。

 少し森にわけ入り、何本か手頃な枝を拾う。

 火に戻る途中、プリムとポポイの様子が気になった。

 プリム、野宿だと寝付きが悪いってぶつぶつ文句言ってたしな。ポポイはどこでも寝れるって豪語してたけど。

 ランディはプリムとポポイが寄り添って寝ている茂みに近づいて行った。

 二人は穏やかな寝息を立てている。ポポイのは少し鼾と言ってもいいが。

 ランディはほっとする。そのまま立ち去ろうとしたが、ふとプリムの寝顔が目に入った。

 プリムは思っていたより穏やかな顔で、静かな寝息を立てていた。

 ――よかった、ちゃんと寝つけたんだ。

 女性であるプリムは、ランディとは体力が違う。負けず嫌いの彼女はあまり認めようとしないのだが。

 きちんと休めないと明日も辛いだろうと思っていたので、ランディは安心する。

 ほっと溜息をつくと、火のところに戻ろうと思ったが、なぜか足が動かない。

 「……」

 プリムの顔から目が離せない。

 普段はきつめにつりあげられている瞳が閉じられ、長い睫毛が影を落としている。

 森の奥から聞こえていたはずの獣の方向も、近くで寝ているポポイのいびきも聞こえない。プリムの常に罵詈雑言を浴びせてくる唇がかすかに開いていて、そこから聞こえる息遣いが迫ってくるようだった。

 ランディはいつの間にか手を伸ばし、指の先でプリムの頬に触れていた。

 自分の日に焼けた肌とは違い、白く柔らかく絹のような肌。

 指先が、意識せずにプリムの顎のラインをなぞる。

 「――!?」

 何やってるんだ、僕は!

 ランディは我に返り、心の中で自分をなじる。一気に顔がほてると同時に、自分の心臓が信じられないほど鼓動を早くしていることに気付いた。

 「ん……」

 プリムが寝返りを打った。そのかすかな声に鼓動がさらに早まる。

 ランディは足音を立てないようにじりじりと後ずさると、一目散に火のところへ戻った。

 「うわあああああ!」

 ランディは響かないような小声ながら、奇声をあげて拾ってきた枝を次々に火の中に放りこむ。

 「あーあ……」

 枝がなくなってしまうと、ランディはがっくりと自分の膝の間に頭をいれて肩を落とした。

 何やってるんだ、本当に、僕は……。

 そう思いながらも、先程プリムに触れた指先が熱い。

 「柔らかかったなぁ……」

 ぼそりと呟いたあと、自ら口にしたその内容に、はっとする。

 「何言ってるんだ僕は!あああああ!」

 もう一度赤面して、しばらく暴れると、ぼうっと先程の感触を思い出し、また赤くなる。

 そんなことを繰り返しているうちに夜が明けたが、そのあとにもランディは少しも眠れなかった。





 「アンちゃん、顔色悪いぞ?」

 「さてはちゃんと寝ないで火の番してたわね!?あんたは、何でも一人でやろうとしないで、私たちを起こしなさいよ!」

 朝になり、あくびを噛み殺しながら二人になじられつつも、プリムが何も気づいていないことにほっとしたり、罪悪感を抱いたりとその日のランディは忙しかった。

 

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2009.12.6

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