春
記憶を取り戻したポポイを妖精の森に連れて行くため、三人は上の大地に降り立った。
そして、「四季の森を春から順番に巡れば妖精の森に辿り着ける」というポポイの言葉に従って、春の森にやってきた。
「うわあ、きれい!」
プリムが歓声をあげた。
三人の目の前には、薄い桃色の花びらを満開に咲かせた桜の木が並んでいた。
「だろう!次の夏の森も、秋の森も、冬の森も、それぞれ違う魅力があってすごくきれいなんだ。さすがオイラの故郷、世界一だ!」
ポポイが誇らしげに胸を張る。やはり帰ってきたことが嬉しいのか、はしゃいでいるようだ。上気した頬がいつもより赤い。
そんな中、ランディは一人、体を硬直させて一歩も動かずにいた。
「ランディ?どうしたの?」
プリムの声に、ランディはぎこちなく首を動かして二人のほうを見た。
「な……」
「な?」
「なに!?なにこれ!!なんで葉がピンクなの、毒でもあるの!?なんでこんな落ちてるの!?秋でもないのに!大丈夫なの!?そして、なんで二人ともそんな平気そうなの!?」
あわあわと、一気にまくしたてるランディを、二人はぽかんとして見つめた。
「ランディ、あんた、もしかして……」
「桜、見たことないのか?」
二人の問いにランディは「サクラ?」と首を傾げる。
それが答えになった。二人は声をあげて笑い始めた。
「あんた、本当に田舎者なのね!そうよね、ポトスに桜は咲いてないわよね」
「アンちゃん、あれは桜って言う木。よく見て、ピンクなのは花で、ちゃんと別に葉があるだろ?」
ランディの顔がみるみるうちに赤くなった。そっぽを向いて「そんなに笑わなくても……」と言うと、二人はさらに笑い転げた。
ひとしきり笑ったあと、ポポイは眼尻に溜まった涙をふいて息を整えた。
そして、その場で両手を広げるとくるりと一回転した。
「オイラ、春が一番好きだ!」
「そうよね、暖かくて、花もたくさん咲いて」
「うん!春は芽吹きの季節だ。冬に雪の下でたくわえた力で、枯れた大地をよみがえらせる。緑に染まった野や、開いた花を見ると、力が湧いてくるんだ!一度別れた人とも、きっともう一度会えるって信じさせてくれる」
「一度別れた人……」
ランディは、どこかで生きているかもしれない両親を思う。
プリムは、勇敢な恋人の顔を。
「まずは、ポポイだな。さあ、早く仲間のところに行こう」
ランディはポポイの頭に手を乗せていった。
ポポイはランディの顔を見上げ、にやりと笑う。
「ああ!夏の森はこっちだ!」
三人は一気に駆け出す。
ランディとプリムが、そのときのポポイの言葉に、さらに深い意味を見出すのは、この旅が終わったあとのことだった。
ゲームをプレイしていた当時は思いませんでしたが、聖剣2は西洋っぽい雰囲気なのに、桜が出てくるのはけっこう違和感が……しかもどピンク!そう思って書きました(笑)
でも、日本人の春のイメージと言えば桜ですよね、やっぱり。
2009.2.7