「ランディが行方不明?」

プリムが瞬きをする。何を言われたのかわからない、という反応だ。ジェマは頷いた。

「ああ。……そういうことになると思う」

「何それ。ずいぶん曖昧ね」

プリムの家の玄関先で、ふたりは立ったまま話をしていた。

訪ねてきた人物が旧知のジェマだとわかったときに、プリムはあがっていくように言ったがジェマは難しい顔をしてここでいい、と言ったのだ。

自分にもまだよくわからないのだと前置きされた話を聞いていくと、どうやらランディの所在がわからないということらしい。

「一週間前にポトス村の村長の家を、友人に会いにいくからしばらく帰らないと言って出て行ったらしい。だが、行先は誰も知らなかった」

「ランディは戦いが終わった後、マナのことを調べるって言ってあちこち回っているもの、いつものことじゃない?」

「だが、行先は知らせていただろう?特に、どこか遠くに行く場合には、その前にプリムのところに会いに来るのが常だったじゃないか」

そういえばそうね、とプリムは顔をしかめた。

「ここ最近は来ていないわよ。……一番最後に会ったのは、二週間くらい前かしら?パンドーラの本屋を見に来た、とか言ってそのついでに会いにきたけど」

「それは本屋のほうがついでかもしれないな……」

「え?なに?」

「いや」

老騎士は首を振る。

「わしの考えすぎかもしれない。だが、わしはランディにポトス村に訪ねていくと手紙で知らせていたんだよ。それなのにでかけてしまうのはランディらしくない」

「うーん」

プリムもおかしいと思ったのか、唸り声をあげる。

ジェマはプリムが行先を知っているのではないかと期待していたようだが、それはないとわかる。

「どうも心配なので、わしはタスマニカに帰る道中、先の戦いでランディと関わった人に話を聞いていくよ。何か知っているかもしれない」

「待って。私も行くわ」

ジェマは驚きに目を見開いた。

「いいのか?エルマン殿が許しはしないと思うが……」

「パパとは喧嘩中。またお見合い攻勢が始まってね。ちょうどいいし、私もそんな話聞いたあとでじっとここで待ってなんかいられないわ」

すぐ準備するから待ってて、とプリムが踵を返す。

その後ろ姿が少々うきうきとしているような感じがするのは、気のせいではないはずだ。

ジェマは苦笑しながら、大臣の令嬢の元気な姿にほっとする。

ランディとプリム、彼らが運命を翻弄された戦いから一年以上が経った。

心に大きな傷跡を負った若者たちをジェマは心配していたが、少しずつ未来に向かって進んでいるようで安心する。

だが、時間がすべての傷を完全に癒してくれるとは限らない。

もう子どもとは言えないランディのことを過剰に心配している自分に少し大袈裟かとも思うが、ジェマはなんとなく悪い予感がするのだった。

 

 

 

「ランディ?来ていないわよ」

レジスタンスのアジトのリビングで、金髪の少女はあっさりと言った。ジェマとプリムはがっくりと肩を落とした。

ここに来る前に、ルカやニキータに会いに行ったのだが、いずれもランディは来ていないという返事だった。

そこでプリムが、ジェマがポトス村の村長に聞いたというランディの言葉に注目したのだ。

「友人に会ってくる、っていうところがポイントよ。例えばルカ様をさして友人とはランディは絶対言わないわ。友人ってことはある程度私たちに歳が近いってことよ。

戦いの中で出会った歳が近い人、ランディが友人と言いそうな人は一人しかいないわ!」

プリムの推測に従ってやってきたのはノースタウンだった。レジスタンスのリーダー、クリス。ランディとプリムと歳が近いながら、リーダーという重責を立派にこなしている少女だ。

ジェマもプリムの言葉になるほどと納得してここまでやってきたので、クリスの言葉を聞いたときには徒労感が大きかった。

プリムも同じだったのか、思わずテーブルに身体を突っ伏している。

「ノースタウンにも来ていないの?ランディってばどこにいるのよ!」

これでポトス村に戻っていて、のん気に本でも読んでいたら蹴りをいれてやるわ、とプリムが物騒なことを喚く。

クリスが苦笑しながらぱたぱたと手を振った。

「違うわ、私には会いに来ていないっていうだけよ。ノースタウンには来ていたようだわ」

「え!?」

「レジスタンスのメンバーが、ランディが街にいるのを見かけているの。通行人に道を聞いていたって……。

それで私にもそのうちに会いに来てくれるのかと思っていたんだけれど、結局来ていないわ」

やっと手がかりが見つかり、ジェマとプリムの顔が明るくなる。だがクリスに会いに来たという推測は外れていたようだ。

これでは、その後にランディがどこに行ったのかがわからない。

「ランディってば、ノースタウンに結局誰に会いにきたのかしら?クリスじゃないんだったら心当たりなんてないわ」

「うむ……」

弱り切った顔をした二人が気の毒になったのか、クリスは少し待っていてね、と言って立ち上がった。おそらくは私室のある二階へあがって行くと、一冊の本を持って戻ってきた。

顔を見合わせた二人の前に、大木が表紙に描かれた本が差し出される。

「これは……」

「ジェマ知ってるの?」

「ノースタウンのマナの学者が書いた本で……最近出版されたものだ」

「ランディはその執筆者の家への行き方を聞いていたようなの」

ジェマとプリムがはっとした顔をする。プリムが勢い込んで立ち上がる。

「その人に会えばなにかわかるかもしれないわ!行きましょう、ジェマ」

だが、ジェマは困ったようにプリムを見る。クリスも微妙な表情をしている。

プリムが首を傾げ、どうしたの?と問うと、クリスが「会えないわ」と堅い声で言った。

「その人、もう亡くなっているのよ」

 

 

 

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