赤い運命

 

 

 

 8

 

 

 本物の王は、朝方、王の私室で発見された。丸二日間監禁状態だったので、衰弱は見られたが、元来エネルギッシュな人らしく、すぐに回復して改めてランディたちと謁見した。

 

 そこでスパイを倒したことを感謝され、この恩は一生をかけても償うと言われた。

 

 好きなだけ滞在していいと言われ、もう一泊させてもらうことになった。武器や防具を整え、買い物をし、一日が過ぎる。

 

そして、就寝時間。

 

既に寝間着を着たランディの部屋にプリムとポポイが押し掛けてきた。ランディが困惑していると、プリムが厳かに宣言する。

 

 「今日は三人で寝ます」

 

 枕を抱えたパジャマ姿のポポイも、プリムの隣でにんまりと笑う。ランディはぽかんとした。

 

 「……どうして?せっかく個室があるのに」

 

 ランディが言うと、プリムはぎろりとランディを睨んだ。ランディは思わずたじろぎ、身を引く。

 

 「……ランディ。私とポポイが気付いてないとでも思ってるの?あんた、個室のときは夜更かしして寝てないでしょう」

 

 ランディはぎくりとする。様子がおかしいことに気付かれているかもしれないとは思っていたが、指摘されるとは思わなかったのだ。

 

 「何か飲みに起きたり、散歩したり!読書してるのか明かりがついているときもあったわね」

 

 すべて、眠れないときにしていた行動だ。言い当てられて、ランディは何も言えずに黙りこむ。とりあえず、悪夢のことまではばれていないので気付かれないようにほっとする。

 

 「明日はまたジャッハ様のところに行くんだから、寝不足じゃ困るわ!しかも、怪我したばっかりなんだから。というわけで、今夜は私とポポイが監視のために、一緒のベッドで寝ます」

 

 「え、ええええええ!?」

 

 ランディは大声を上げた。ランディの部屋に布団を持ち込むということかと思っていたのだ。

 

 「い、一緒にって……ひとつのベッドにってこと?」

 

 「もちろん」

 

 プリムはなぜか得意げに胸を張る。ジェマが用意してくれた個室は広く、ベッドもセミダブルだ。狭いだろうが三人一緒に眠れないことはないだろう。だが、そういう問題ではないとランディは顔を真っ赤にした。

 

 ポポイとなら別にいいけど……!プリム、君、年頃の女の子だろう!

 

 言いたい台詞をぐっと堪える。プリムは何も気にしていない様子なのに、自分が邪な考えを持っているように思われるかもしれないと思ったからだ。

 

 だが、そんなランディの考えはプリムにはお見通しだったようで、ふふん、と楽しそうに言った。

 

 「あら、ランディ。私に何かする勇気があるの?」

 

 そして、両手の骨をバキボキと鳴らす。ランディの頭は一瞬で冷え、背筋を凍りつかせた。

 

 「……滅相もございません」

 

 「よろしい」

 

 そう言って、プリムは、ベッドの端に腰かけた。

 

 ポポイもはしゃぎながら逆の端に飛び込む。

 

 「アンちゃん、真ん中な!」

 

 ポポイがプリムと自分の間をぽふぽふと叩く。

 

 ランディは溜息をついて、ベッドの中に入る。

 

 明かりが消される。すぐ隣には二人の体温がある。なんか楽しいな!とポポイがはしゃいだ声を出す。そうね、と答えるプリムの声も弾んでいた。

 

 そのとき、ランディは気が付いた。

 

どうして、二人に悪夢のことがばれなかったのか。

 

 それは、悪夢を見たときは個室だったからだ。

 

 だが、それはもしかして――個室だったから、一人で眠ったから、悪夢を見たのかもしれない、と。

 

 なーんだ、とランディは思い、くすりと笑う。

 

 「アンちゃん?」

 

 「どうしたの?」

 

 問いかける二人に、ランディは笑って言った。

 

 

 

 「いや――今夜は、良い夢が見られそうだなって、思って」

 

 

 

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2009.3.29

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