赤い運命
4
プリムとポポイの方には、やはりというか収穫はなかったようだ。パーティーと聞いて、プリムは出発が遅くなると文句を言いながらも満更でもなさそうにうきうきとし、ポポイはご馳走が食える!と歓声をあげた。
そして準備をするため、三人はそれぞれの個室に引き揚げた。
ランディは、与えられた個室で一人溜息をついていた。
目の前にあるのは、着替えるように渡された正装だ。どうやらタスマニカ騎士団の騎士が身につけるものを貸してくれたようで、マントや甲冑などが並んでいる。
それらは一様に白のものだった。
「……僕には似合わないな」
ランディは、誰にも聞かれることがないだろうと、自嘲気味にぽつりと呟く。
先程のジェマとの会話がよみがえる。
今は、聖剣の勇者であると言えば、個室を貸してもらえる。食事を用意してもらえる。歓迎のためにパーティーを開いてもらえる。だが、これから先はわからない。
聖剣の勇者は、決して清廉潔白な名前ではない。モンスターを倒すだけでなく、四天王の一人、ゲシュタールのような、人間だって殺したのだ。
自分の手は、既に血で汚れている。自分の歩んできた道には、屍が積み重なっている。
白い色など、似合わない。似合うのはきっと、血の赤い色だ。
だが、罪に問われるのも、血にまみれるのも、自分一人で十分だ。
戦いが終ったら、プリムはディッラックと共にパンドーラで幸せになる。ポポイは風の神殿で待つ神官のもとに帰るのだろう。
その二人の未来を、邪魔したくはない。
ランディは頭を振ると、服に袖を通した。
パーティーの会場に行こうと廊下を歩いていると、ジェマと、その部下らしい騎士が待っていた。
「ランディ。パーティーに無粋なものを持ち込むな、と王がおっしゃられてな。悪いが、会場内ではタスマニカの騎士以外、武器は持ってはならないということになったのだ。聖剣をどこかの部屋に置いておいてもらえないか」
ジェマの言葉が終る前に、ジェマの部下が、聖剣を預かろうと、ランディの腰に手を伸ばした。
二人が止める間もなく、その手が剣の柄に触れる。
ばちっという音と共に火花が散り、部下が手を引っ込めた。
手を押さえながら目を白黒させる部下を、ジェマが諌めた。
「おい、大丈夫か?聖剣は持ち主以外扱えないと言っていたのを聞いていなかったのか?」
「す、すいません。つい……」
恐縮する部下に、ランディは慌ててその手をとる。軽い火傷になっているようだ。
「冷やした方がいいですね」
「うむ。ここはもう良い、休んでいなさい」
部下は頭を何度も下げ、その場から去っていった。
「少しせっかちなところがあるやつでな。すまなかった」
「いいえ。こちらこそすみません。でも、知らなかった。他の人が触ると電流みたいなのが走るなんて……聖剣は僕以外には扱えないとは聞いていたけど、こういうことだったんだ。あえて他の人に触らせることもほとんどなかったから……」
ランディは感心した後、ん?と首を傾げた。
「でも、プリムやポポイが使っても平気だし、ワッツも剣を鍛えるときべたべた触っているような……」
「それは、聖剣が『認めている』からだろう」
ランディはジェマの言葉に驚いて聖剣に目をやった。
「……本当、不思議な剣だ……」
「うむ」
ジェマが頷いたあと、ふと何かを思いついたようだ。ランディに少年のように楽しそうな顔を向けた。
「そうだ、ランディ」
「何?」
「まだパーティーが始まるまで時間がある。私もマナの研究者として聖剣に興味があるのだ。剣を預けてしまう前に、少し、実験をしないか」
「実験?」
ねつ造だらけで本当すいません……。
2009.3.25