赤い運命
2
タスマニカ共和国は、周りを海と島に囲まれた、巨大な城そのもののことを指す。
街が一つも二つも入りそうなほど広い城の中に、家があり店があり、国民が皆暮らしているのだ。
ランディたちがここにやって来たのは、賢人・ジャッハの捜索が目的であった。
真の勇気を手に入れるため、ジャッハの試練を受けようと、マンダ―ラ山の頂上にあるほこらを初めて訪ねたのはもう随分前のことだ。
ジャッハの弟子であるジーコに、ジャッハはこっちに行った、あっちに行ったと振り回されてはいずれも空振りに終わるということを幾度となく繰り返してきた。
そろそろ三人も、ジャッハかジーコ、あるいはその両方に担がれているのではないかと思い始めていたが、結局は従うしか道はない。今回もジャッハはタスマニカ共和国に行ったと聞かされて、しぶしぶながらもやって来たのであった。
朝食を済ましたあと、三人が城の廊下に揃うと、プリムが仁王立ちで他の二人に言い放った。
「さあ!たぶんいないんだろうけど、ジャッハ様を探すわよ!」
「いきなり気持ちが折れるようなことを言わないでくれよ、ネエちゃん……」
ポポイが溜息まじりに言うと、プリムは頬をふくらませた。
「だって!今までの経緯を考えたら、絶対今回も入れ違いになってるって思うのが普通よ!」
「もしくは、やっぱりオイラたち、ジャッハ様にいいように遊ばれているか、だな」
「そうよね……さっさと捜索して、ジャッハ様はここにはいないって結論付けて、あのジーコってトリをとっちめにいきましょう!……ちょっとランディ、聞いてるの!?」
ぼうっと突っ立っていたランディは、プリムの大声にはっとして視線を合わせる。
「う、うん、聞いてたよ」
「本当に?しっかりしなさいよ!」
「ご、ごめん」
ランディはへらへらと笑ってごまかした。プリムは全くもう!と言ってランディを小突く。ポポイがそれを見て笑う。
ランディは内心、胸を撫で下ろした。昨夜、悪夢を見た後はやはり眠れず、寝不足なのだが、うまくごまかせたようだった。
しっかりしなくては、と思っていると背後から声がかかった。
「ああ、いたいた。おはよう、ランディ、プリム、ポポイ」
振り向くとジェマがいた。その顔は、一目でわかるほど疲労がにじんでいた。珍しいことに、三人は眉を寄せる。
「おはよう、ジェマ。……何かあったの?」
ランディが心配そうに尋ねる。わかるか、とジェマは苦笑したあと、声をひそめて言った。
「実は、国内にスパイが入りこんだという情報が入ってな」
「えっ」
三人は声を合わせて驚く。
「しかも、賊は王の命を狙っているらしい。そのため、昨日から厳戒態勢で城内の捜索と王の警護を行っていてな。一睡もしておらん」
ジェマは私ももう若くないのだがな、と顔を歪める。三人は気の毒そうな顔をすると、次々と口を開いた。
「手伝えることがあったら言ってよ、ジェマ」
「そうよ、どうせジャッハ様はここにはいないだろうって話してたところなのよ」
「オイラたち、ヒマだぞ!」
ジェマはありがとう、と表情を柔らかくして、それでは早速頼もうか、と言った。三人はきょとんとする。
「実は、王がお前たちに会いたがっていてな」
「タスマニカ共和国の王様が?命を狙われているってときに、のん気な王様ね」
プリムの呆れたような物言いに、ジェマも困った顔をする。
「そうだな……王は聡明な方で、常であればこのような事態の最中に我儘を言うようなお人ではないのだが。聖剣の勇者を連れて来い、と言ってきかなくてな」
ランディが、聖剣の勇者、という言葉にぴくりと反応する。他の三人はそれに気付かない。
「ふうん……ま、いいわ。謁見すればいいだけでしょう?そんなに時間はかからないだろうし、いいわよ」
「すまないな」
「あ、待って」
話がまとまりかけたところで、ランディが待ったをかけた。
「王様のところには、僕一人で行くよ」
「アンちゃん一人で?」
ポポイが首を傾げる。ランディはうなずいて言った。
「聖剣の勇者に会いたいっていうのなら、僕一人で十分だよ。僕が王様のところに行っている間に、二人はお城の中を捜索してよ。時間は効率良く使ったほうがいいだろう?」
「……まあ、そうね。でも、あんた一人で大丈夫?王様相手にきちんとしゃべれる?」
「だ、大丈夫だよ!」
声がうわずったランディに、プリムは疑いの目を向ける。だが結局、一理あるわね、と納得した。
そこで、終わったらまたここで落ち合う、ということを決めて、ランディとジェマ、プリムとポポイという組み合わせに別れ、各々の目的の方向へと散った。
情報の出所はマクリトさんという設定です。
2009.3.22