赤い運命
1
剣の柄を握る左手が汗ばむ。
夢中になり敵の動きを追う。
ただひたすらに剣を振るう。
肉を切り裂く感触を感じる。
生ぬるい返り血が飛び散る。
視界が、赤に、染まる……
「――――っ!」
声にならない叫びで、目が覚めた。
ランディは荒い呼吸のまま、見開いた目を巡らす。
今自分がいるのが、タスマニカ共和国の城内の一室であることを思い出し、ゆっくりと起き上がった。
汗が寝間着に張り付いて気持ちが悪い。
ようやく息使いと動悸が落ち着いて、ランディは額を曲げた足の膝につけて溜息を吐きだした。
そして、一人部屋でよかった、と思う。
タスマニカ共和国に着いたのは、夕暮れ近くだった。出迎えてくれたジェマは、疲れているだろうと、すぐに寝室としてそれぞれに個室を用意してくれたのだ。
普段、宿屋に泊まるときは、二部屋を取り、ランディとポポイで一部屋、プリムが一部屋、というのが基本だ。たまに「今日は私がチビちゃんと寝る!」とプリムが気まぐれに言い出すこともある。無論、路銀が心もとなくなったときや、部屋がいっぱいのときは三人で一部屋であるし、野宿のときは固まって眠るのだが。
プリムもポポイも勘が良い。同室であれば悪夢を見たことなどすぐ気付かれていただろう。
この夢を見るのは、初めてではなかった。
脈絡のない夢だ。敵を倒しているときのことが断片的に浮かび、視界が赤く染まり、最後には、今のように突然目が覚める。
原因はわかりきっていた。それは、ランディが戦いに身を投じるようになってからずっと感じてきたことだからだ。
罪悪感。
先に進むために、自分の命を守るために、世界を救うために。立ち塞がる敵は倒さなければならない。
最初のうちは無我夢中だった。何も考えず、ただただ剣を振るってきた。だが、余裕が出てきた頃になって、疑問が出てきたのだ。
自分に、敵の命を奪う権利など、あるのだろうか、と。
そして、そう思いながらも、世界を救う聖剣の勇者という大義名分から、惰性で剣を振るい続けてきた。
生きる者の命を奪う罪悪感。
そして、罪悪感を感じながらも、結局は剣を振るい続ける罪悪感。
それらに押しつぶされそうになるのだ。
旅の最中、悪夢は定期的に訪れた。夢を見た日は一日中気が重い。
プリムとポポイには、このことは隠している。たまに様子がおかしいことには気づいているかもしれないが、原因まではわかっていないだろう。
二人とも、表面には見せないが本当はとても優しいので、話せばきっと心配する。
だが、プリムはディラックとパメラのこと、ポポイは滅ぼされた自分の村のことで、ただでさえ心を削っているのだ。自分のことで煩わせて、負担を増やしたくない、というのがランディの気持ちだった。
窓の外はまだ日が昇る気配もない。
ランディは再びベッドへと身を沈めた。
もう一度眠れないのはわかっていたが、せめて気休めでも身体を休めるために、きつく目を閉じた。
2009.3.18