約束
抜けるように晴れ渡った青空。
ぽかぽかと暖かい陽気。
生命力あふれる緑の木々、咲き誇る花々。
そして、響き渡る――モンスターの断末魔。
「何やってるんだろうねぇ、オイラたち」
ポポイがアースクエイクを放ちながら言った。
のんびりとした口調だが、紛れもなく戦闘中である。
「本当よね。こんなに良いお天気の日に」
プリムが拳と蹴りを繰り出しながら答える。
「それを言ったらお終いだよ」
ランディも、剣を振りかざしながら苦笑しつつ返す。
「雲ひとつない青空!こんな日に、モンスターと格闘してるなんて、ナンセンスだわ!」
プリムが回し蹴りを繰り出してマイコニドを仕留める。
「そうそう、もっとやるべきことがあると思うんだよ」
ポポイがラビのタックルを交わしてブーメランを投げる。
「例えば、どんなこと?」
ランディはビーに向かって剣を振り下ろす。
「そうだなぁ……」
ポポイは少し考え込んだ。もちろん、体は動かしたままで。
やがて、ポポイはぱっとひらめいた顔をした。
「オイラ、ピクニックに行きたい!」
片手をはいはーい!と掲げて宣言するように言う。
「いいわね、それ!」
プリムが即座に振り向いた。
ランディは敵に隙を与えるのではとひやひやしたが、二人は楽しげに会話しながらも、攻撃の手は少しも緩めなかった。
「お弁当持って行こう!」
「そうね。場所はどこがいいかしら」
「うーん、そうだな……」
「ランディはどこがいいと思う?」
「え、え?」
急に話を振られて、ランディは本気で考える。だが、思い返してみるとピクニックに行ったことなどないので、どういった場所に行くものなのか思いつかない。
そこで、今までの旅で訪れた場所をひとつずつ思い出してみる。
ビーを連続で三匹倒したところで、あ、と声をあげた。
「四季の森がいいんじゃない?」
「おお!」
「ランディにしてはいい選択ね!」
素直に喜べない称賛に、ランディは口元を引きつらせた。
「いいなぁ、いいなぁ!ピクニック!」
「春の森でお弁当食べて」
「夏の森でお昼寝しよう。秋の森では、落葉のじゅうたんに埋もれて、お芋を焼いて!」
「冬の森では雪合戦で勝負ね!」
ランディをこてんぱんにしてやりましょうポポイ、という言葉に、ランディは二対一なの!?と慌てて返す。
「行きたいな、ピクニック」
ポポイがどこか切実に言った。
ランディは少し切なくなった。今の自分たちに、寄り道をしている余裕はない。
「……行こう、ピクニック」
気付けばそう口にしていた。
プリムとポポイが驚いたようにこちらを見る。
「この旅が終わったら。みんなで」
二人はじっとランディの顔を見ていたが、やがてプリムがふっと表情を緩ませた。
「……そうね。みんなってことは、ジェマやルカ様も?」
「ディラックのアンちゃんもだな」
「パメラも呼ぼうよ。それからニキータ」
「トリュフォーと、フラミーと」
「じっちゃんも呼んでいい?」
「もちろん!」
「あとはクリスも。マクリトは来てくれるかしら?」
「雪合戦はチーム戦だな!」
三人は、戦いながらもいつか行くピクニックについて、いつまでも話を弾ませた。
三人とも、今は、目の前のことに精一杯で未来のことなど考えられない。
だが、辿り着けるかもわからない未来の中で、その約束だけが確かに大切な希望だった。
それが、果たされることのなかった約束だとしても。
2009.4.3