名前
風の神殿を出発しようとしたとき、プリムがあ、と何かを思い出したように声をあげた。
「そういえば、ポポイ。あんた、本当の名前は何なの?」
ランディとポポイはきょとんとし、数秒後、顔を見合わせてあ、と言った。
「忘れてた。『ポポイ』は僕がつけた仮の名前だったよね」
「なじみすぎて、オイラも忘れてた」
「ポポイがじっちゃんって呼んでた風の神官様は、『おチビ』って呼んでたけど。まさかそれが本名ではないでしょう?」
プリムの問いに、ポポイはうーん、と難しい顔をする。
まさかまだ完全に記憶が戻っていないのか、とハラハラする二人に対し、ポポイはそうじゃないよ、大丈夫、と手を振った。
「なんて言えばいいのかなぁ……説明するのが難しいんだ」
「妖精には、名前という概念がないのじゃよ」
見送りに出てきていた風の神官が口を挟んだ。がいねん?と首を傾げるポポイに、プリムが考え方、みたいな意味よ、と言う。
なるほど、とポポイはうなずくと、説明を始めた。
「そうそう、名前っていう考え方がないんだ。人間でいう、あだ名とか職業みたいなもので呼び合うのが普通なんだよ」
「ワシのように年寄りは『じっちゃん』。おチビのように小さい者はそう呼ばれる。道具を売ることを生業にする者は、『道具屋』というように呼ぶのじゃよ」
「妖精は人間より数が少ないから、それで足りてたしな」
ランディとプリムはへえ、と感嘆の声をあげた。
「だから、オイラのことは今まで通り『ポポイ』って呼んでくれよ!せっかくアンちゃんがくれた名前だからな!」
「ほう。勇者殿がくださったのか。どのような理由で『ポポイ』と?」
「あ、それ、聞きたいわ」
三人の期待のこもったまなざしに、ランディは困った顔をする。
「そんな、たいそうな理由じゃないんだけど……」
ランディは照れ笑いしながら言う。
「ポトス村に、妹みたいな存在の子がいたんだ」
故郷の村のことを語るランディが穏やかな表情をしていることは珍しく、プリムとポポイは黙って聞く。
「その子も孤児で、村長の家に預けられていた。まだ小さいから、僕がよそ者だとか、そういうこともよくわかってなかったからか、とても懐いてくれた。……ポトス村の思い出の中で、一番温かくて優しいものが、その子のことなんだ。その子の名前が、『ポピー』だったから」
「それをもじったのね」
ランディがこくりとうなずいた。
すると、ポポイが満面の笑みで言った。
「じゃあ、オイラはアンちゃんの一番良い思い出を、名前にもらったんだな!」
そうね、とプリムが言う。風の神官が微笑んだ。
ランディは、ごほん、と咳払いをして言う。
「じゃあ、改めて。これからもよろしく、ポポイ」
「よろしくね」
おう!とポポイが答えた。
ゲームでは少しも触れられていなかったポポイの本名について考察。まるでポポイが本名のような扱いをされてますよね(笑)
2009.4.7