8 舐めて貰っちゃ困るわ
帝国ノースタウン、レジスタンスのアジト。
帝国古代遺跡での戦いの後、ランディたち三人と救出されたパメラはクリスの好意により、ここに身を寄せていた。
「プリム」
いまだ目を覚まさないパメラを見舞うため、廊下を歩いていたプリムは、呼びとめられて振り向いた。
そこに立っていたのはジェマだ。
「あら、ジェマどうしたの?」
「プリムに話があってな。パメラのことなのだが」
パメラのこと、と聞いてプリムは背筋を正す。
「パメラのご家族も心配しているだろう。回復したらすぐにでもパンドーラに帰してやった方がいいと思うのだが……」
プリムはそうね、とうなずく。同時に、なぜそんな当たり前のことをジェマが言い出したのかわからず困惑した顔をする。
ジェマは少し言いづらそうに言葉を紡いだ。
「……プリム。パメラに付いてパンドーラに戻らないか?」
「え?」
プリムは意外そうな顔をし、次の瞬間、ジェマの言わんとすることに気づいて憮然とした。
「ジェマ、それって私にパンドーラに帰れってこと?」
「い、いや……」
「今回のことで操られたディラックに殺されかけたから?ショックを受けてるだろうし、パメラの護衛にもちょうどいいしって?」
「…………」
ジェマの沈黙は肯定を表していた。
プリムは溜息をついて言った。
「確かに今回のことは油断した私のミスよ。だからって今更びびったりしないわ」
「とは言え、プリムの旅の目的はディラックとパメラの救出だろう?半分は達成できた。だが、ディラックの救出はかなり難しそうだ。ならば、このあたりで手を引いてもいいのではないか?」
今ここでプリムに抜けられるのはランディとポポイにとってかなりの痛手だ。
だが今回、プリムを窮地に追いつめたことで、本来聖剣の使命に無関係な彼女をいつまでも巻き込んでいるのはどうかと思ったのだ、とジェマは説く。
「君に何かあったら、エルマン殿にも申し訳が立たないだろう?」
ジェマの言葉に、プリムは再び溜息をついた後、腰に手を当てて仁王立ちした。
「舐めて貰っちゃ困るわ、ジェマ!」
ジェマが気押されたかのように身を引く。
「私は、例えディラックを助け出せたからといって、はいじゃあさようなら、なんていなくなったりしないわよ」
ジェマが目を丸くした。
「だって、ランディもポポイも、関係ないのに私の事情に付き合ってくれていたんだもの。ここまで来たら、私だって、ランディたちの事情に最後まで付き合うわ。途中でディラックを助け出せたとしても、一緒にパンドーラに帰ったりしない。帰るなら、最後まで見届けてからよ。だから、今も同じ。私はランディたちと行く」
悪いけど、パメラのことお願いするわ。
そう言われて、ジェマは苦笑する。
「わかった。パメラのことは任せなさい。もうとっくに、プリムは覚悟を決めていたんだな。私のおせっかいだったようだ」
「ううん。ジェマが私たちのこと、本気で心配してくれてるのは、いつだってわかってるから」
プリムはじゃあ、と手を振って歩きだす。一つに束ねられた金色の髪が揺れる。
その様子を見ながら、ジェマはふっと口元をゆるめた。
ジェマは、プリムの覚悟を試すためにこんな質問をしたんです、きっと。
2009.5.3