5 それ以上は許さない

 

 

 

 

 

 「はぁっ!」

 

 ランディが気合いの声を発し、剣を振り下ろした。

 

 最後の一匹だったモンスターが断末魔をあげて消滅する。

 

 三人は一斉に溜息をついた。今日のモンスターたちは少々手強く、三人共無傷とはいかなかった。

 

 「さ、怪我したところを見せて!」

 

 プリムは魔法のくるみを口に放り込むと言った。

 

 だが、ポポイが心配そうに言う。

 

 「ネエちゃん、大丈夫か?今日は回復の魔法、使いっぱなしじゃないか」

 

 「そりゃあ疲れるけど、だからと言って怪我がすぐに自然に治るわけじゃないんだから。さ、見せて!」

 

 ポポイはしぶしぶながら、腕をまくる。先程モンスターの攻撃を受けたときに地面に叩きつけられてしまったのだ。なんとか腕だけで身体を支えたが、その代償として腕は擦り傷に加えて、赤く腫れかけていた。

 

 プリムがポポイの腕にヒールウォーターをかけると、嘘のように傷が治り、腫れが引いて行く。

 

 「さっすがネエちゃん」

 

 「ま、こんなものね。次はランディよ」

 

 「あ、僕は大丈夫。どこも怪我してないよ」

 

 ランディが明るく言い、ぱたぱたと右手を振った。

 

 だが、プリムはじとっとした目でランディを見る。ぎくりとランディが肩をびくつかせた。

 

 「……ランディ?私の目はそんなに節穴だと思ってるの?」

 

 「ななななな何のこと?」

 

 どもってしまっていることで既に動揺が露わになっているにも関わらず、ランディは必死に取り繕うとする。

 

 その努力もむなしく、プリムは「問答無用!」と言ってランディの左手を取った。

 

 「いっ……!」

 

 「ほらやっぱり!あんたね、利き手じゃないほうで手を振ってる時点でバレバレなのよ!」

 

 ランディの利き手である左手には擦り傷ができていた。早速回復魔法の呪文を唱え始めるプリムにランディは慌てる。

 

 「ちょ、ちょっとプリム!こんな擦り傷放っといていいって!」

 

 「黙ってなさい」

 

 重たい声が響き、ランディは一瞬で口を閉じた。隣ではポポイが忍び笑いをしている。

 

 見る見るうちに傷が治り、ランディはぽつりと「ありがとう」と言う。プリムはふん、とそっぽを向いた。

 

 「じゃあ行こうか。目的地までもう少しのはず……」

 

 「ランディ」

 

 身体を翻したランディに、プリムが声をかけた。

 

 ランディが動きを止めた。そのまま、こちらを見ようとしない。ポポイが首を傾げて二人を見る。

 

 「ねえ、ランディ。私は余計な時間を取らされるのが嫌いなの。知ってるわよね?」

 

 「……う、うん」

 

 「じゃあさっさと観念しなコラァ!」

 

 「うわああああ、プリム!ちょっと!」

 

 プリムはランディの背中に跳びかかると、何のためらいもなく服を脱がしにかかった。

 

 ランディの背中には、打ちつけたらしい腫れが見られた。

 

 「私相手に隠し通せると思ってるわけ!?素直に見せれば手間が省けるんだけど、何でわからないかしらね!」

 

 ランディの背中に馬乗りになったプリムは腫れに向けて手をかざし、魔法をかける。

 

 仕方なくランディはおとなしくなった。

 

 ポポイはすげえ、と一言呟いた。

 

 「よくわかるなー、ネエちゃん」

 

 「経検の賜物よ。あのね、ランディ。怪我を隠しておいて、ひどくされるほうがよっぽど私は迷惑なんだけど!?」

 

 そう言ってプリムは腫れの引いたランディの背中をばしりと叩いて、避けた。ランディは服を直しながらぼそぼそと言う。

 

 「……魔法のくるみで回復できると言ったって、魔力を使うのもけっこう大変だろう?細かな怪我まで治していたらきりがないじゃないか」

 

 「細かい怪我が、放っておいたらひどくなることもあるのよ!本当頑固ねぇ」

 

 「それは君のほうじゃないか」

 

 「何か言ったランディ!?」

 

 「……いいえ何も」

 

 ランディは立ち上がって、仕上げとばかりに服を叩いてほこりを落とした。

 

 「じゃあ、今度こそ出発しようか」

 

 そう言ってランディは一歩踏み出した。それに元気よくポポイが続く。

 

 プリムも続こうとしたが、ぴくりと眉を動かすと、足を止めた。

 

 「ねぇ、ランディ」

 

 「何?」

 

 「それ以上は許さないわよ?」

 

 ランディが三度、身体を凍りつかせた。

 

 ぎこちなく首を回して見たプリムの顔は、誰もが見惚れる、実に綺麗な笑顔に彩られていた。

 

 「え、えーと。何のこと?」

 

 「あら、それを聞くの?もうわかってるんじゃない?」

 

 「な……何のことやら」

 

 「うふふふ、まだ白を切るつもりなの。それなら」

 

 プリムは素早く足を振り上げ、ランディに足払いをかける。

 

 「うわああ!?」

 

 あっさりとランディはバランスを崩し、地面に叩きつけられそうになったところをプリムの手で助けられる。

 

 おとぎ話の王子と姫のように、二人は抱き合って見つめ合う。だが、男女の配役は逆であることに加えて、その雰囲気はロマンスには程遠かった。

 

 「ランディ?右足がぎこちなく動いているようだけど?」

 

 「そうだね、き、きっと見間違じゃないかな!?」

 

 「あら、じゃあ聖剣の勇者ともあろう者が、どうしてこーんな簡単に足払いにひかかったのかしら?」

 

 「ま、まだまだ僕も未熟だってことだよ!」

 

 「そう。まだ観念しないなら、傷口に塩を塗り込んで、それから回復魔法かけるけど、どうする?過程はどうあれ、結局治るんだから一緒よね?」

 

 プリムの瞳の中に本気の色を見出し、ランディは硬直する。

 

 ポポイは近くの木のうろに腰掛け、経過をのんびり見守ることにした。

 

 ややあって、その場にランディの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

お題

 

2009.4.8

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