これは「ゼ/ロの●い/魔」とのダブルパロです。
ルイ/ズ→プリム、才/人→ランディ。ギーシュ→ディラック。デルフリ/ンガー(意思を持っている剣なので、しゃべります)→聖剣。シエス/タ→パメラ。一応元ネタを知らなくても読めるようにしたつもりです。
というか、実は原作もアニメもきちんと見たことがあるわけではないので、雰囲気で読んでいただけるとありがたいです。
優しい赤
「結婚式?」
ランディが驚いた声をあげた。
敵である帝国の七万の軍勢を文字通り命をかけて足止めしなければならないという任務の前に、何を言い出すのだろう。
戦いに向かう前夜、近くの教会で結婚式をしたいと言い出した彼女に、ランディは困惑した顔を向ける。
「う、うるさいわね!いいじゃないの!結婚もせずに死ぬのが嫌なだけよ!」
プリムが顔を赤くして喚く。
「だって……相手が僕でいいの?」
「あんたしかいないもの。しょうがないじゃない」
口をとがらせて言う彼女の顔はまだほんのりと赤い。ランディは薄く微笑むと、言った。
「いいよ。僕でよければ、喜んで」
ランディの返事に、プリムの顔には花が開くように笑顔が広がった。
西日がステンドグラスから差し込む教会。
プリムは十字架に向かって祈りを捧げていた。
「……プリム、準備できたよ」
ランディはそう言って、赤ワインを入れたグラスを彼女に差し出す。
プリムはそれを受け取り、二人は涼やかな音を立てて、グラスを合わせた。
中身を一気に飲み干し、二人は向かい合う。
「ところで、結婚式って何をすればいいの?」
ランディがそういえば、と言ったふうに尋ねる。そしてキスとか?と何も考えずに呟いたあとに、自分の言葉に顔を赤くした。
「なっ、何言ってるのよ!」
プリムが顔を真っ赤にしてランディの顔面へ鉄拳を降りおろした。
「ばばばば馬鹿じゃないの!」
「殴ることないのに!」
「あんたが変なこと言うからでしょ!誓いの言葉を言えばいいだけよ!」
「は、はぁ……」
痛む頬を押さえながら言うランディに、プリムは咳払いをして向かい合う。
「ありがとう、ランディ。最初出会ったとき、あんたはゴブリンに食べられそうになっていて、何このマヌケ男って思ったけど……今は、あんたと一緒でよかったと思ってる」
「うん……僕も」
改まった様子で告げたプリムに、ランディは頷いた。そして腕を伸ばし、プリムを柔らかく抱きしめた。
「ラ……ランディ」
「…………」
プリムが呼ぶ声にも、ランディは何も言わない。プリムは息を整えると、誓いの言葉を紡ぐ。
「ランディ。私……私ね。あんたのこと……」
「スリーピング」
プリムの言葉を遮るように、硬い声が響いたかと思うと、プリムの身体から力が抜けた。
ランディは倒れようとする身体を支えるため、膝をつく。プリムの顔を見ると、穏やかに寝息を立てていた。
「……――っ!」
ランディは彼女の肩口に顔を埋めると、肩を震わせた。
ランディがプリムを抱えながら教会から出てくると、待っていたかのようにディラックが立っていた。
「ディラックさん……」
「この近くに帝国軍が迫っていると聞いてね。早く逃げたほうがいいと伝えに来たのだが」
「そうですか。ありがとうございます」
ランディは頭を下げると、ディラックにプリムを預けた。
「……プリムを頼みます。早く逃げてください」
「そうか。君は?」
「僕も逃げます」
「君が行こうとしている方向には、帝国軍がいるはずだが」
「僕はマヌケ男ですからね。逆の方向に行ってしまったらしい、と言っておいてください」
そう言い残して立ち去ろうとするランディを、ディラックは呼びとめた。
「君は……何のために戦いに行くんだい?プリムは自分の父のため、友のため、国のために戦っている。君には何もないだろう。何のためにそこまでするんだい?プリムのため……かい?」
ランディは緩く頭を振った。
「いいえ……自分のためです」
限界まで沈みかけた太陽が、三人を照らす。プリムの金色の髪が黄金に輝いている。
「これは僕の勝手な行動です。プリムには生きていてほしいなんて……ただの独りよがりな願いです。だから、自分のためです」
ランディの指先はプリムの頬を愛おしそうに一度撫でた。
その指を丸めこむと、ディラックのほうをひたと見据える。
「プリムを……よろしくお願いします」
「――任せてくれ」
ディラックの声に安心したように微笑むと、ランディは夕日が沈んでいく方向に向かって駈け出して行った。
ディラックも感傷にひたっている暇もなく、すぐに踵を返した。
「はあーあ……」
闇が落ちた草原。幾人かの見張りの兵士たちが、ランディの足元に倒れていた。
「何で僕、あんなところに突っ込まないといけないんだろ……」
ランディはため息をついて、潜んでいる崖の下をのぞいた。
そこには七万の軍勢がいた。
あまりの数にもう一人一人を目で判別することなど不可能だ。かたまりがあるな、としか思えない。ところどころに周りを照らすため、魔法で生んだ火があるのだろう、その光景は星で輝く空が下にもあるかのようだった。
だが、綺麗だなとも思えない。あれは紛れもなく兵士たちのかたまりなのだ。そして自分は、これから一人であれに立ち向かわねばならないのだ。
「そりゃあ、お前、好きな女のためだろ?」
聖剣がからかう口調で答える。
「ディラックにあんな立派な御託並べたが、結局は単にそうだろうが」
「……まあね。いいじゃないか、最後くらい。かっこつけたって」
「そうだな」
そう言って聖剣は黙ってしまう。
ランディはもう一度ため息をついて、静かに言った。
「ねえ、聖剣」
「うん?」
「僕、死ぬのかな」
「たぶんな」
「…………」
「ま、せいぜいかっこつけな」
「そうするよ」
ランディは立ち上がると、聖剣を構えなおした。
「行くよ!」
「おう!」
ランディは大地を蹴って、崖から飛び降りた。
空中で風の音を聞きながら、口の中で魔法を唱える。
「ファイヤーボール!」
特に狙いも定めず、適当に魔法の火の玉を放つ。とりあえず混乱を招くことが目的だ。
――僕とプリムが受けた命令は帝国軍を足止めすること。僕一人じゃ、一日稼ぐくらいが限界だ。でも、プリムとディラックさんが逃げるためにはそれで十分なはず!
案の定、強襲を受けた軍の兵士たちは隊列を乱し始めた。
ランディは地面に激突する、という瞬間に風の魔法を使い、ふわりと着地した。そのまま、全速力で駆けだしていく。
「いいかランディ!とにかく敵の隊長クラスを狙え!鎧やなんかの装飾が他のとは違って派手なやつだ!上が倒されれば下は動揺する。なるべく多くの上のやつを叩けば、それだけで軍の歩みは遅くなる!」
「わかった!」
ランディはそのまま兵士の群れに突っ込む。慌てた様子で応戦しようとする兵士たちの身体を次々となぎ倒す。
馬に乗り、鎧に勲章を多くつけた騎士が剣を振りおろしてくる。ランディは地面を蹴ってその攻撃を交わし、その背中に聖剣を叩きつけた。
騎士の身体が馬から落ちた途端、周りの兵士たちがおろおろとし出す。積極的にランディにかかってこようとせず、後ずさるような印象を見せた。どうやら今のがこのあたりの隊長だったらしい。
「ランディ!前!」
聖剣の声にはっとしてランディが前を向いた瞬間にはもう遅く、魔法の光が迫っていた。
かろうじて身体をひねって直撃は避けたが、光の勢いに吹っ飛ばされる。
「くっ!」
地面に叩きつけられそうになるのを、受け身をとって防ぐ。一か所にとどまっていればまた攻撃が来るのはわかっていたので、素早く身体を跳ね上げて、再び駆ける。
向かってくる兵士たちに剣をふるいながらも、ランディはただ一人の名前を胸の中で呼び続けていた。
――プリム。
向かってくる矢を次々と聖剣ではじき返すが、何本かが腕や足を抉る。
痛みなど気にしている暇はなかった。ただただ隊長クラスの騎士をめがけて走り、剣をふるい、魔法を唱える。
また攻撃魔法の光が迫ってくる。いくつかは避けたが、血液が流れたせいか視界が揺れた。
その瞬間、腹部に重たい衝撃が来た。今度こそ吹き飛ばされるが、なんとか踏みとどまる。
「ランディ!大丈夫か!」
「だめだ、たぶん肋骨いった……!」
ランディが苦笑いして言った。それでもまた一歩を踏み出す。そのたびに身体じゅうが痛むが、もうどこが痛いのかもわからなかった。
――プリム!
「プリム!」
「ランディ!」
がばりとプリムが身体を起こす。
「目が覚めたかい?」
目の前にいるのはディラックだった。プリムは自分の置かれた状況がわからず、きょろきょろとあたりを見回す。
どうやら船の上にいるようだ。周りには身を寄せ合うようにして人々がうずくまっている。みな一様に暗い顔をしていた。
「あれ、私……?ランディは?ランディ……」
その名前を口にした途端、すべての記憶がプリムの中でつながった。
「そうだ、ランディ!私、ランディと一緒に帝国軍を足止めしないといけないのに……!」
「ここは戦火を避けるためにパンドーラへ避難する船だ。ランディくんは、君が眠っているうちに帝国軍のところに一人で向かったよ」
「なっ……!」
プリムはディラックの言葉に立ち上がると、船主室へ駈け出して行く。船員に詰め寄ると、「お願い!おろして!」と懇願し始めた。
二人に同行していたパメラが、プリムを止めようと腕をとる。
「やめて!プリム!もう遅いわ!」
「放して!ランディ……あの馬鹿!私も一緒に戦わないと!ランディ!」
プリムの悲鳴を乗せたまま、船はかなりのスピードで波をかき分けて進んでいく。
「いやあああ!ランディ!」
「ランディ!ランディ!」
聖剣の呼びかけにも、もうランディは応えられなかった。
荒い息遣いが、徐々に弱まっていく。身体の周りにはおびただしい量の血が流れ、地面を赤黒く染めていた。
地面に倒れ伏したランディの周りには、彼が倒した兵士たちや騎士たちが、折り重なるように倒れていた。
だが、その周りはさらに多くの帝国軍の兵士たちがランディにとどめを刺さんと取り囲んでいる。
「まだ少年ではないか。しかも一人で……」
「被害は隊長が十五人、兵士が百人弱……、怪我人も合わせるともっと大きな数になるかと」
「兵たちへ与えた動揺も大きいです」
「行軍は一日か、二日……遅れることになってしまうかもしれません」
交わされている会話が耳に入ってくる。
言葉たちはランディの頭の中で明確な意味を成さなかったが、なんとなくは理解できた。
どうやら自分は、一応は目的を果たすことができたらしい。
そう思い至ると、どっと身体に疲れが押し寄せた。
痛みももう感じない。視界ももうはっきりしない。
――ああ。死ぬんだな。
「……キスくらいしておけばよかったな……」
ランディはふと呟いた。
周りが明るくなるのを感じた。おそらく、とどめをさすための魔法の光だろう。
「ランディ!!」
聖剣が絶叫する。
ランディは迫る光の中、夕日の光の中で触れた、プリムの顔が見えた気がした。
実は死にません(笑)。この後、原作ではエルフさんに助けられるんですが、その役はポポイとかでどうでしょう。
2010.1.1