はつこい
ショックじゃなかったって言えば嘘になるわ。
もちろん、いつかは結婚すると思ってたけれど。
ランディも直接言いに来なくてもよかったのに。少し私の気持ちも考えてほしかったわ。
なんてね。
私の気持ちなんて、伝えていないんだから当たり前。
交友のある人に直接報告するなんて真面目なランディらしいわ。
「結婚することにしたんだ」って言ったときの彼の顔!
あのとき、胸がぎゅってなったわ。濡れた布をねじって水を絞ったみたいに。
ちゃんと笑顔でおめでとうって言った自分を褒めてあげたいくらいよ。
式はもう少し先らしいから。それまでには平気な顔ができるようになっていないと。
え?
けっこうショック受けてるんじゃないって?
そりゃあね。
好きだったもの。
初めて会ったときは聖剣の勇者って言う割に普通の男の子ね、ってそれだけしか思ってなかったけど。
でも、聖剣の勇者ってだけでなんかかっこよく見えたかも。うんうん、そのせいもあるのよ。
そういうものじゃない?
私だって普通の女の子だもの。
勇者って響きだけでかっこいいじゃない。
それに、私、ランディの戦っている姿を、プリムの次に近くで見ていたんだもの。かっこいいと思わないほうがおかしいわ。
ランディは普通の男の子で、でも必死に世界を救うために頑張っていて、私のこともレジスタンスのリーダーとしても一人の女の子としても優しくしてくれた。
――好きになるわよ。
でも、本気じゃなかったわ。淡い思いよ。ちょっといいなあってくらい。
私だってレジスタンスのリーダー。皇帝が生きていた頃はそんな気持ちにかまっていられないくらい忙しかったわ。
ちょっといいなあって思っていることは自覚していたけど、それだけ。
今だって忙しいもの。
だから、そんなにショックじゃないの。本当よ。
毎日やらなくちゃいけないことはたくさんあるし、きちんとした恋ともいえない気持ちにかまっている暇はないの。
結婚するって決定打を打たれて、悲しかったけど。
本当は、もしかしたら私にもまだチャンスがあるんじゃないかってちょっと思ってたことは否定しないけど。
何?え?
……うん。
そうね。
わかってるわよ。強がっているのは。
好きだったわ。
淡い思いでも。ちょっといいなあって程度でも。
好きだったわ。
好きだったのよ。
私のことを見て、はにかんで笑う笑顔とか。目が合うと恥ずかしそうに伏せる目線とか。クリスって名前を呼ぶ声とか。
怪我してない?とか、疲れているんじゃない?とか、僕に手伝えることがあったら言ってね、とか。
かけてくれた言葉を、馬鹿みたいに全部覚えてる。
純粋に心配してくれただけなの、わかってる。でも、期待してたわ。
……好きだったのよ。
もう言えないけれど。
あーあ。
成就した気持ちより、こういう、言えなかった気持ちのほうが、あとあとまで残ってしまうのよね。
忘れられないわ、きっと。
ランディ。
あなたが好きよ。もうずっと。
心の中で呟くだけにして終わりにする。
気持ちの整理にはまだずいぶんかかるだろうけど、許してね。