決意
「行くのかい」
背後からかかった声に、ポポイは振り向かずに「ああ」と答えた。
ポポイは最後に鞄を肩に掛けると、くるりと振り向いた。その目の前には風の神殿の神官の姿があった。
「荷物はそれだけかい?」
「うん。何か残っているものがないかと思ったんだけど……やっぱり全部焼けちゃったんだね」
ポポイが寂しさを押し隠して冷静に言う。
滅茶苦茶に荒らされてしまった妖精の村。ポポイは自らが住んでいた家を調べにきたのだが、跡形もない無惨な姿を再確認するだけで終わってしまった。
ポポイと風の神官は家の外に出た。朝焼けの前の、冷たい空気が二人を包む。
「戻るよ。アンちゃんたちが起きちゃったら、姿がないことに心配するだろうし」
ポポイは伸びをして言った。ランディとプリムはまだ風の神殿で眠っているはずである。
「……おチビ。いや、ポポイ」
「なに?」
「ここに残ってもいいのだぞ。勇者殿はきっと世界を救ってくれるだろう。風の神殿のマナの種子もまた狙われるかもしれん。ワシもポポイがいてくれたほうが心強い」
風の神官の言葉の後、荒涼とした風が、破壊の限りを尽くされた村を吹いた。
ポポイは空を見上げたあと、口を開いた。
「――いや。行くよ」
「そうか」
「うん。オイラ、守りに入るのは性に合わない。自分から攻めていきたいんだよ」
にやり、と風の神官に笑いかける。
「心配しなくても……復讐のためにいくんじゃないよ」
ポポイの言葉に神官は「……そうか」と返す。
「オイラは、自分が生きるために戦いに行くんだ。マナがなくなって、妖精が消えるなんて事態を阻止してみせる」
「ああ」
「悪いな、じっちゃん。あんまり無理しないでくれよ。また帝国が攻めてきたら、隠れてろよ?」
「大丈夫じゃ。そこまで老いぼれとらん」
くすくすと笑い合うと、二人は神殿に向かって歩き出す。
朝日が昇り始め、二人の背中を照らした。
2009.6.13