イブの相談 

 

 

 

 雪を踏みしめる音が断続的に響く。

 明るくなった足元に、ランディは顔を上げた。目の前には、窓から淡い光が漏れる小さな家がある。

 ランディは白い息を吐き出しながら、ドアをノックした。

 「はーい」

 のんびりとした声が響く。

 ドアを開けたところには、トナカイが立っていた。

 「勇者さん!お久しぶりです。主人も中で待ってますよ。さあ、どうぞ」

 ランディは微笑むと、家のなかに入った。

 


 かつての戦いの中で出会った、サンタクロースとトナカイ。

 ランディはクリスマスの迫ったこの日、二人に会いに来ていた。

 「……あれ?クリスマスだから忙しくしているのかと思ったんだけど……?」

 上着をハンガーにかけつつ、ランディが尋ねる。

 サンタクロースとトナカイは、お互いに顔を見合わせて苦笑した。

 「世界中の子どもたちの夢を見る力を糧に、クリスマスにプレゼントを配る……それがわしらの力だったのだが」

 「僕らも知らなかったんだけど、それってマナの力だったらしくて」

 「戦いの後、マナが消えてからはわしらの力も消えてしまっての。今は隠居生活じゃ」

 サンタクロースとトナカイが交互に説明する。

 ランディは勧められた席につきながら、軽いため息をついた。

 「そうなんだ……」

 自分が奪ってしまったものの影響がここにもあるのか、と思うと少し気がふさいだ。

 サンタクロースはそんな空気を払拭するように暖かいココアをランディの前に置いた。

 「気にするでない、勇者殿。わしもこいつもそろそろ齢だし、ちょうどよかったよ」

 「そうです!」

 トナカイがこくこくと頷く。ランディはぎこちなく笑って見せた。

 「それに、わしらがいなくても大丈夫なようだしな」

 「え?」

 「僕たちがプレゼントを配れなくなっても、世界中の人たちは、自分の大切な人にプレゼントを自分で渡しているみたい。自分の恋人や、友達や、子どもたちに」

 「サンタのふりして子どもにプレゼントをあげる親もいてな……わしらがいなくなってもサンタを信じる心は受け継がれていくようだ。嬉しいことだね」

 サンタクロースとトナカイが穏やかに微笑んだ。

 ランディも二人の笑顔とココアの甘さと暖かさに、思わず微笑んだ。

 「勇者殿はいいのか?」

 「え?」

 「プレゼントをあげなきゃいけない人がー、いるんじゃないんですかー?」

 トナカイが妖精の子どもを思い出させるようなニヤニヤ顔で言う。

 ランディは一気に顔を赤くさせて、目線を下げつつ呟く。

 「じ、実は」

 「何?」

 「プレゼントをするプロのお二人に、お聞きしたいことがありまして……」

 改まった様子のランディに、二人は顔を見合わせる。

 「クリスマスのプレゼントって、プリムは何をあげれば喜ぶと思う!?」

 言ってしまったあと、ランディは「あっ、間違った、『女の子は』何をあげれば喜ぶと思うって聞こうと思ってたのに、思いっきり名前出しちゃった!」と慌ててさらに顔を赤くしている。

 サンタクロースとトナカイはその様子を微笑ましく見守った後、さて、何を勧めてあげればよいかと思考を巡らすのだった。


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2009.12.24 

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