青年は荒野に立つ
真夏の日差しが容赦なく肌を焼く。
ぬぐってもぬぐっても出てくる汗にうんざりしながらも、それでも放っておけば目の中に入りそうでランディはもう一度左腕で額を撫でた。
前髪をバンダナで上げて、肩を出していても暑いものは暑い。
思わず振り仰いだ太陽はこちらなどものともせずに眩しく照らし続けてきていた。
草いきれの匂いと、昆虫の声があたりを覆っている。
「あ……」
ふと既視感を覚えた。
こんな夏の暑い日には必ず思い出す場面がある。
あれは聖剣を抜いて村を追い出された後、プリムとも喧嘩別れをしたときのことだった。
村を出てからパンドーラ王国に向かっていたときもひとりで旅をしていたはずなのだが、無我夢中だったためかあまり覚えていない。
プリムと別れ、それからポポイと出会うまでが、あの旅の中でほぼ唯一、一人きりで旅をした記憶だった。
詳しい前後の思い出はない。
ガイア高地で、ガイアのへそに向かっていたときだったように思う。
一人でなんとかあたりのモンスターを一掃し、荒い息遣いが徐々に収まる。
するとふいに真夏の痛いほどの日差しと、立ち上る陽炎が意識に入ってきた。
モンスターではない昆虫たちの声だけがあたりに響き渡り、じっとしていても汗が噴き出してくる。
ランディは今と同じように汗を腕でぬぐうと、太陽を見上げた。
照りつけるだけの太陽は、それ以上何もしてくれない。
途端、昆虫の声が大きくなった気がした。
ふいに、ああ、自分はひとりなのだと感じた。
荒野の中、立ち尽くして、今までの出来事と、これから自分に大きくのしかかってくる運命の予感に押しつぶされるような気がしたのだ。
そしてそれはきっと、間違いではなかった。
「ランディ!」
ふいに耳元でした声にランディは現実に引き寄せられる。
頬をふくらませたプリムがこちらを見ていた。記憶の中よりも鼻筋が通っていて大人びた目元のメイクをしている彼女に、いまがいつかを否応なく想起させられた。
「何ぼうっと突っ立ってるの。早く行くよ!」
「う、うん」
ふいに手首をとられて引っ張られる。
視線を上げるとそこにはルカとジェマ、クリスが立っていた。
ランディの口元が上がる。
さっきまで自分が立っていた場所を見遣り、「さよなら」と呟いた。